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家族の記憶どうつなぐ 映画「夏時間の庭」

2009年5月23日

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 家族の記憶が詰まった家屋や品々を手放すことは、亡き人たちとの絆(きずな)を断つことになるのか――。グローバル化の進展で離散も余儀なくされる現代家族が抱えうる難題を、フランスの映画監督オリビエ・アサイヤス(54)が最新作「夏時間の庭」で浮かび上がらせた。日本で公開中の作品に込めた思いを、パリで監督に尋ねた。

 緑豊かなパリ近郊の邸宅の庭。75歳の誕生日を迎えた母親を囲む、久しぶりの家族のだんらんが冒頭、ゆったりと展開する。やがて母親が長男に語りかける。「私も年を取った。先のことも考えないと」

 母親は、画家だった亡き大叔父から、アトリエを兼ねた邸宅や美術品を受け継いでいた。その行方を案じながら、間もなく急死する。「子供たちに残したい」と長男は願うが、それぞれ米国と中国で人生を切り開く長女と次男は「家は要らない」。相続税を回避するためもあり、邸宅は売却、美術品のほとんどはパリのオルセー美術館への寄贈が決まる。

 この現実的な選択に至る遺族の葛藤(かっとう)の物語だけに終わらせないのがこの作品の奥の深さだ。「登場人物のように選んだ」と監督が語る美術品の「その後」がたどられる。

 例えば花瓶たち。一つは家政婦が仕えた主人の形見として持ち帰る。別の花瓶はオルセー美術館に展示され、「無関心な入場者を前にした孤独」が描き出される。「美術品の多くはかつて居間や寝室に飾られるために作られた。人間の生活から生まれたものだった」と監督は言う。

 オルセー美術館が開館20周年記念の映画制作を提案したのが作品の発端。アール・ヌーボーの家具など同美術館から借り受けた本物の逸品も登場する。ただ、館内撮影も許可した美術館側に敬意を表しつつも、監督は「美術館は美術品の墓場だ」と言い切る。

 監督は「大切なのは目に見えないもの」とも語った。そのメッセージを託すのは長男の娘だ。美術品に興味などなく、非行も発覚する問題児。ただの脇役と思いきや、最後の最後、家族の物語に仕掛けられた、どんでん返しを演じる。

 「それは将来への希望ですね?」と尋ねると、監督は即座に「ウイ」と答えた。(パリ=飯竹恒一)

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