2009年7月3日
SABU監督
プロレタリア文学の古典「蟹工船」が映画化された。労働者の蜂起の物語を、SABU監督がポップな映像に再構築した。この新しさは是か非か。議論沸騰必至の問題作だ。ちなみに記者は首をひねる側だったのだが、なぜこのような映画にしたのか、監督の狙いを聞いた。
過酷な労働に苦しめられた蟹工船の乗組員たちが、最後にストで立ち上がる。小林多喜二が1929年に発表した原作が、非正規雇用者への搾取が強まる今、再び脚光を浴びている。
SABU監督は96年、「弾丸ランナー」でデビュー。「MONDAY」が00年のベルリン映画祭で国際批評家連盟賞を受けた。疾走する脚本と斬新な映像、意表を突くユーモアが国内外で評価されている。
原作は、労働者対資本家という主題をあからさまにした一種のアジテーションだ。しかし映画版は抑圧が極限まで描かれず、主題が肌から伝わってこない。「今、階級闘争を色濃く出すと観客を限定すると思いました。ウジがわく場面とか、汚い映像も見せたくないし。本ではいいが、映像では見たくないのでは。オレは間口を広げ、より多くの人の背中を押したかった」
労働者が蜂起するには怒りの感情が不可欠。映画はこの「怒り」が足りないと映る。「オレは怒りのパワーが好きじゃない。結果的にいいものが生まれない。怒りに任せた暴動より、一人ひとりが考えて行動すべきだと思う。オレの描きたかったのは、努力すれば報われるということ」
蟹工船の内部はアートな機械が稼働し、白い蒸気の中を一条の光が走る。衣装を含め、美的統制が取れすぎているのではないか。「レトロな雰囲気を出そうとしたんだけど、ちょっとオシャレな方向に行ってしまったかな」
主役の松田龍平を始め、肉体労働をする男の汗が、現代においてはむしろ光り輝いて見える。「確かにね。『職がない』と言いながら、しんどい仕事を嫌がる若者も多いから、彼らが映画を見て『肉体労働、カッコいい』と思うのも悪くないかもしれません」
SABU監督の差し出す世界は、旧世代が考える「蟹工船」とはおよそ別物だ。「原作通りに書いてたら、プロデューサーにもっとオレの色を出せと言われて。映画は小説とかなり違うと思う。でも、マイナスの地点にいた主人公が努力を重ね、最後にスタートラインに立つ、という物語は、オレがずっと作ってきたものと同じなんです」
4日から東京・渋谷のシネマライズほかで公開。(石飛徳樹)