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ベネチア映画祭 豊かさと幅広さ強調

2009年9月15日

 イスラエルの反戦映画を金獅子賞に選んで12日に幕を閉じた第66回ベネチア国際映画祭。コンペティション部門には、昨年より4本多い25本が出品された。ゾンビの襲来あり、時をかけるSFあり、どんでん返しあり……。映画という表現の持つ豊かさや幅広さを印象づけるコンペとなった。

■受賞作に求めた清新さ

 リベットやヘルツォーク、シェローといった映画祭の常連監督を抑えて主要賞に選ばれたのは、4人の新人監督の作品とその出演者だった。

 「レバノン」が金獅子賞を取ったサミュエル・マオス、「女たち」で銀獅子賞(監督賞)をさらったシリン・ネシャット。そしてコリン・ファースに男優賞をもたらしたトム・フォードとクセニア・ラパポルトを女優賞に導いたジュゼッペ・カポトンディは、それぞれファッション界やミュージックビデオ界からの映画初進出だ。

 映画祭ディレクターのマルコ・ミュラーの掲げた今年の目標は「より多くの映画を、より多くの国を、より多くの1作目、2作目の作品を」だったという。受賞作はミュラーが望んだ通り、ベネチアの清新さを表していた。

 今回のコンペの楽しさを象徴するのが、モダンホラーの父ジョージ・A・ロメロ監督の「サバイバル・オブ・ザ・デッド」と、審査員特別賞を受けたファティ・アキン監督の「ソウル・キッチン」だ。

 ロメロは、68年の「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」以来、ゾンビ映画を作り続けている。出品作は、二つの派閥が対立する村が舞台。ゾンビへの対策も正反対で、団結できない人間の愚かさが浮き彫りになる。ホラーなどの、いわゆるジャンル映画がコンペに入るのは珍しい。

■社会派目立つ結果に

 アキンはこれまで映画祭向きのシリアスな作品で知られていたが、今回は作風を変え、テンポの速い喜劇を出品した。レストランの若き経営者が、恋人に去られたり、店を乗っ取られたりしながらも前向きに生きる物語。アン・リー審査委員長も「喜劇は軽視されがちだが、素晴らしい喜劇に正当な評価を与えたかった」とたたえた。

 コンペで最も話題を集めたのはマイケル・ムーア監督の「キャピタリズム ア・ラブ・ストーリー」。過激なドキュメンタリストの今度の標的は「資本主義」そのもの。人間よりもお金を優先させる米国社会を糾弾する。激しさは健在だが、突撃取材は不発だった。麻生首相の映像が登場し、日本を米国よりも優れた国として描いていたのも、底の浅さと映った。

 娯楽作や話題作が並んだことで、数少ない誠実な社会派映画が逆に目立つ結果になった。金獅子賞と銀獅子賞が社会派に行ったのもうなずける。

■「南北問題」を反映

 「レバノン」は82年、イスラエル軍のレバノン侵攻を描く。戦車に乗り組む4人の若者が主人公。ほぼ全編、カメラが狭い戦車の中から出ず、外で起きる惨状は照準レンズを通してのみ見える。マオス監督の実体験の映画化だといい、受賞会見で、戦争の極限状況を「観客に体感してほしかった」と語った。

 「女たち」のネシャット監督はイラン出身の美術家。くっきりした色使いや大胆な構図は、坂本龍一の音楽と呼応して高い芸術的完成度だった。しかし本作への評価は芸術性ゆえではない。4人のヒロインがイスラムの男性中心社会に立ち向かう勇気だ。それはイラン女性として挑戦的な作品を発表した監督自身の姿に重なる。

 金と銀の社会派2本はいずれも中近東の監督が作ったもの。一方、欧米の監督作品は洗練された娯楽作であったり、個人の精神に分け入ったりする作品がほとんど。映画にも南北問題が如実に反映していた。

 南北2極化の状況で、日本の「TETSUO THE BULLET MAN」はひょっとしたらどっちつかずに映ったかもしれない。塚本晋也監督の原点「鉄男」シリーズの第3作。塚本監督は会見で「戦争が風化する危機を感じて暴力の怖さを表現した」との趣旨の発言をしたが、この社会派的な姿勢が、シリーズの持つ痛快な疾走感を若干そいだようにも見えた。

 南北問題と言えば、個人的に最も感銘を受けたのがフィリピンのブリヤンテ・メンドーサ監督の「祖母」だ。今年のカンヌで「キナタイ」が監督賞を受けた。新作は、過失致死事件の被害者と加害者の2人の祖母が主人公。愛する孫のため、雨ニモマケズ風ニモマケズ奮闘する老女のけなげでしたたかな姿を、メンドーサは究極のリアリズムで描く。受賞は逃したが、日本での公開が待たれる才能だ。(ベネチア=石飛徳樹)

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