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骨の奥、矜持抱えて 映画「沈まぬ太陽」主演・渡辺謙

2009年10月30日

写真:渡辺謙=伊ケ崎忍撮影拡大渡辺謙=伊ケ崎忍撮影

 若さがこれほど価値を持つようになったのはいつの頃からだろう。誰もがアンチエイジングに狂奔する時代。男優も若さを競い、テレビや映画は年齢不詳の「若者」であふれ返る。

 山崎豊子の小説を映像化するのが流行している。しかし、大人であることに価値があった頃の男を演じられる二枚目がいない。今の男優が大人の重みや渋みを表現しようとしても、力んでいるようにしか見えない。

 しかし、この人だけは違う。何もしなくても大人の男の魅力がにおい立つ。渡辺謙ほど山崎ドラマが似合う男はいない。主人公の恩地に彼が決まった段階で「沈まぬ太陽」の成功は半ば約束されたといってもよい。

 「3年前、山崎先生に手紙を書いたんです。先生の作品で一番興味があるのが恩地元です、と。それから1年たって、『まだ興味がありますか』と出演依頼をいただきました」

 恩地は国民航空のエリート社員。労組委員長の時、経営側と正論で渡り合ったため、10年も海外で冷や飯を食わされる。東京に戻った恩地を待っていたのは、史上最悪のジャンボ機墜落事故だった。

 原作をもう一度読み返してみて「あれっ」と思った。「恩地は結局何も成し遂げていないんですよ。すべてが道半ばで終わっている。どう演じたらいいか雲をつかむようだった。これはもう、恩地と一緒に走り、一緒に悩むしかないと切り替えた」

 恩地は理想を求めて不遇を嘆かず、30年にわたり、会社の収益至上主義と闘い続ける。しかし「彼は決して信念の人ではない」と渡辺は言う。「もう辞めたいと思ったことが何度もあったはず。彼を押しとどめたのは表面的なプライドではない。悩み苦しみをそぎ落とし、それでも骨の奥に残った矜持(きょうじ)です」

 今、未曽有の不況が覆い、企業は生き残りを賭けて利益至上主義に一斉に走り出している。「何のために企業が存在するのか、その理想に立ち返る時に来ている。僕らは、自分たちが抱えてきた『負』の部分をきちんとテーブルに上げるような作品を作っていかないといけない」

 こんな重みある言葉をさらりと言えて、しかも説得力を持つ大人の二枚目がほかにいるだろうか。日本の至る所で彼のような大人が必要とされている。若さ至上主義はもう要らない。

(文・石飛徳樹 写真・伊ケ崎忍)

    ◇

 わたなべ・けん 59年生まれ。「瀬戸内少年野球団」で映画デビュー。大河ドラマ「独眼竜政宗」でブレーク。「ラストサムライ」で、米アカデミー賞助演男優賞候補。ほかに「硫黄島からの手紙」「バットマン・ビギンズ」など。

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