現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. 映画
  5. 記事

父娘の葛藤に文革の影 ウェイン・ワン監督「千年の祈り」

2009年11月13日

写真:ウェイン・ワン監督ウェイン・ワン監督

 「ジョイ・ラック・クラブ」「スモーク」のウェイン・ワン監督の新作「千年の祈り」が14日から公開される。中国から米国に移住した女性作家イーユン・リーの同名小説が原作。香港出身で米国に暮らすワン監督自身の体験も反映させながら、普遍的な「父と子」の物語を織り上げた。

 米国の大学で働く中国人女性(フェイ・ユー)のもとに、北京で隠居独り暮らしをする父親(ヘンリー・オー)が訪ねてくる。離婚した娘の将来を父は案じるが、娘は父の詮索(せんさく)がわずらわしい。12年ぶりの再会は、どんどん気詰まりなものになっていく。

 「外国で新しい言葉と新しい自分を手に入れた娘と、古い価値観を持った父との葛藤(かっとう)は、僕自身も思い当たる。ひと組の親子の話だけれど、ここには普遍的なテーマがある」とワン監督は語る。

 80年代にサンフランシスコに渡り、中国系移民の人間模様を描いた秀作を多数手がけてきた。近年はジェニファー・ロペス主演の「メイド・イン・マンハッタン」などの商業映画が続いたが、「自分らしい映画を撮りたい」と、日本の製作会社の出資で原点回帰とも言える本作を撮った。

 「2人は美しい北京語を話すが、父親の英語はたどたどしい。逆に娘は英語が先に口をつくこともある。言語が重要な映画だから、米国の大手で撮ることは考えなかった。『全部英語でやってくれ』となるからね」

 父と娘の対立の背景には、60年代の文化大革命も影を落とす。科学者だった父親は、文革期に人に言えない体験をした。それを娘は察していた。家族にも亀裂をもたらす歴史の記憶も、監督が引きつけられた大きな点だった。

 「米国の中国出身者から、家庭内に秘密やうそがあるという話をよく聞いた。親が子を売り、子が親を裏切る。文革期の日常が影響している。僕の一家は文革を逃れて香港に渡った。原作者の父や、父親役のヘンリーは中国で辛酸をなめた。直接的には描いていないが、文革体験が映画の大きな部分を占めている」

 一昨年のスペインのサン・セバスチャン国際映画祭で最優秀作品賞、監督賞、男優賞などを受賞。米国やスペイン、フランスでも公開され、大きな反響を呼んだ。

 「30代の働く未婚女性から共感の声をよく聞いたのが印象的だった。伝統的な価値観と自分らしい生き方のバランスにみんな悩んでいるのかもしれない」

 対立しているようで、父と娘はよく似ている。頑固さも、人生の選択にしくじる不器用さも。2人のきずなの深さを感じさせるラストシーンは、実は小津安二郎のある作品を引用したという。(深津純子)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内