現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. 映画
  5. 記事

〈回顧2009〉今年の映画を振り返る

2009年12月7日

写真:「劔岳 点の記」から「劔岳 点の記」から

 この百有余年の間に、映画はまず音声を得て、次に色彩を得た。そして、今度は奥行きを獲得しようとしている。

■3D量産

 ハリウッドでは数多くの3D(立体)映画が製作され、「3D元年」と呼ばれた。ディズニーが3Dアニメを量産し、ベネチア映画祭が3D賞を設けた。年末には、ジェームズ・キャメロン監督の超大作「アバター」の世界同時公開が控える。国内でも清水崇監督がいち早く実写ホラー「戦慄(せんりつ)迷宮3D」を発表した。

 奥行きへの挑戦は過去に何度か挫折してきた。今回は本物だといわれるが、トーキーやカラーのように当たり前になるかというと疑問符が付く。驚かされるのは最初の数分間だけ。あとは慣れてしまい、2D(平面)と大差を感じない。現状では、2Dの奥行き表現の深みを再認識させる皮肉な結果となっている。

■マンガそのまま実現

 3D以外にも、映像表現に関する話題に事欠かない1年だった。特にマンガやアニメの実写映画化。マンガをそのまま映像に移し替えたいという欲望が目立ってきた。

 最たるものが「20世紀少年」3部作だ。小学校の同窓仲間が、世界征服をたくらむ組織に闘いを挑む半世紀にわたる物語。原作者の浦沢直樹らが脚本に参加し、マンガのビジュアルをそのまま実写で再現した。

 こうした傾向はテレビドラマ「のだめカンタービレ」の成功に始まる。映画版が今月公開されるこの作品は、マンガが編み出した派手な感情表現を、CGを使って生身の役者が演じたことで喝采を浴びた。

 今年は「ヤッターマン」「釣りキチ三平」などがCG技術の恩恵を受けて実写化された。崔洋一監督が白土三平の「カムイ外伝」を映画化したが、マンガの持つダイナミズムをフィルムに焼き付けようとしていた。1コマ1コマを実写に平行移動した「美代子阿佐ケ谷気分」なる実験的作品まで現れた。

 マンガと映画ではリズムが違う。CGを使ってマンガの動きを再現する試みは観客に閉塞(へいそく)感を抱かせる。今のCGをもってすれば、どんなことでも出来る。しかし、そこにはどんな映像を見ても驚くことさえ出来ない平板な荒野が広がるのみだ。

■閉塞感打破した「劔岳 点の記」

 そんな閉塞感を憂えたのが、日本を代表するカメラマン木村大作だった。自ら初メガホンを取った「劔岳(つるぎだけ) 点の記」は、明治期の山岳測量隊の実話を基にした物語だが、木村監督はスタッフや俳優と100年前の測量隊と同じルートをたどり、すべてを実写で撮影してみせた。

 作品としての完成度には様々な意見があるかもしれない。しかし、これを見た観客は、原初の映画体験を味わえる。SLが走ってくるリュミエール兄弟の「列車の到着」を見て、思わず逃げようとした百有余年前の観客と同質の興奮が得られる。この映画を235万人が見たという事実は、閉塞感に覆われた映画界に差し込んだ一条の光ではないかと思うのだ。(石飛徳樹)

    ◇

〈私の3点〉評者50音順(敬称略)

佐藤忠男(映画評論家)

▽沈まぬ太陽(若松節朗監督、日本)

▽グラン・トリノ(クリント・イーストウッド監督、米国)

▽精神(想田和弘監督、米・日)

秦早穂子(評論家)

▽ポー川のひかり(エルマンノ・オルミ監督、イタリア)

▽グラン・トリノ

▽脳内ニューヨーク(チャーリー・カウフマン監督、米国)

山根貞男(映画評論家)

▽私は猫ストーカー(鈴木卓爾監督、日本)

▽大阪ハムレット(光石富士朗監督、日本)

▽谷中暮色(舩橋淳監督、日本)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内