2010年1月15日
難しい役ばかり回ってくる俳優というのがいる。彼女がまさにその典型だろう。
そう言うとアハハと笑い、関西弁で「なんででしょうねえ。私、複雑な顔してますかね。至って分かりやすい人間なんですけど」。難しい役をこなす俳優にはこういうタイプが多い。
今公開中の映画「真幸(まさき)くあらば」のヒロインは、中でも極め付きの複雑さだ。自分の婚約者を強盗に殺された女。その婚約者に裏切られた女。死刑判決を受けた強盗に面会に行く女。その死刑囚を愛してしまう女。面会室のアクリル板越しに彼女は究極の感情を静かにぶつける。
「彼女の気持ち? 全く理解できなかったです。共感できないですよね。初めて面会に行くシーンは本当に大変でした。自分がどんな顔をしていたのか、もう覚えてないですよ」
この正直さに、複雑な人物を演じられる秘密が宿っている。
河瀬直美監督の「萌の朱雀」(1997年)でデビューした時から複雑な役を演じていた。当時は奈良の中学生だった。「学校のゲタ箱を掃除していた時、監督にスカウトされたんです。山奥だったから、女優なんて本当に別世界。あの時は監督の言われるままに動いただけ。私は何もしていないんです」
それから十数年。2007年には再び河瀬監督と組んだ「殯(もがり)の森」でカンヌ映画祭にも行った。今年はほかに2本の主演映画の公開が控える。「今でも夢のようです。こんな場所にいていいのかって。家族も『あのダサい真千子がきれいな衣装を着せてもらって』と驚いてます」
役作りが苦手なのだという。「真幸くあらば」でも「ずっと彼女の気持ちが分からずに迷ってました。でもその迷いが複雑な表情になったんじゃないかと今では思います。人間の気持ちって、実は自分でも分からないものじゃないでしょうか」。
理解したふりをせず、ただあるがままに振る舞う。人間という複雑な存在に対する謙虚さがリアリティーの源なのだ。
クライマックスの直後。横たわる彼女の顔を一粒の涙がキラリと光って落ちる。「泣こうとしたんじゃない。早く服着たいなとか、色んな気持ちが交錯して、気がついたら涙が出てた。映像を見てびっくりしました」
奇跡のように美しいショットは、人知を超えたところで生まれる。(石飛徳樹)
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おの・まちこ 1981年奈良県生まれ。今年は「真幸くあらば」(御徒町凧監督)、「トロッコ」(川口浩史監督)、「心中天使」(一尾直樹監督)と主演映画が続く。芸術祭大賞の主演ドラマ「火の魚」は3月13日にNHK総合で放送予定。