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老漁師と孫娘、通い合いすれちがう心 映画「春との旅」

2010年5月22日

 老漁師と、その行く末を案じる孫娘の切ない旅路を写した小林政広監督「春との旅」が22日、各地で公開される。構想8年、胸に温め続けた作品は、家族を見つめ、通い合う心とすれ違う心を丁寧に描いた作品だ。

 「人同士が互いに理解しあうのが難しい世の中で、わがまま、自分勝手でも、人とかかわり続けたいと願う古臭い人間を描きたかった」と監督は語る。

 北海道でニシン漁に身を削った74歳の忠男(仲代達矢)は、妻も財産も失った。共に暮らす孫娘の春(徳永えり)は、勤務先の小学校が廃校になり、新たな職を求めて上京したい。体が不自由な忠男は春を連れて、自らの世話をきょうだいに頼んで回る。だが、対応はつれない。

 監督が望む「生きることに貪欲(どんよく)な老人」を仲代が好演している。3年前、黒沢明監督の作品を見直す中で、仲代に目をとめた。「脚本より動きのある映画になる」と思い、脚本を送ると「すぐやろう」と返事が来た。「仲代さんは、『なりきる』タイプ。えりちゃんには、何かを背負い、理不尽な人生に立ち向かう姿を演じてほしかった」と話す。片足を引きずり、ぶぜんとしてずんずん歩く忠男、がに股で追いかける春……。冒頭の場面から、そうした監督の意図が見て取れる。

 監督は、悲しみを抱えた心象風景から、日本の家族を見つめ、問い直している。

 2005年の「バッシング」は、中東で武装集団に監禁された女性が帰国後、周囲から自己責任を問われるさまを通して、家族の崩壊も映した。07年のスイス・ロカルノ映画祭でグランプリを受賞した「愛の予感」では、娘を殺された男と、加害者の母の苦しみを静かに紡ぎ出した。

 「やったらやり返すという社会の連鎖は、人間関係にも及んでいる。誰とも接しない、人とつながろうとしない若い人たちは、まともな大人になれるのだろうか。熱心に生きることの意味を、忠男の姿に託したかった」と述べた。

 大滝秀治、淡島千景、柄本明らも出演。(松田史朗)

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