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音楽誕生の瞬間、障害の子と立ち会う「音の城♪音の海」

2010年5月23日

写真:映画「音の城♪音の海」から。大友(中央のギター)は取材に「子供たちの音楽には、知的障害という事前の情報なしに聴いて素晴らしい曲があった」拡大映画「音の城♪音の海」から。大友(中央のギター)は取材に「子供たちの音楽には、知的障害という事前の情報なしに聴いて素晴らしい曲があった」

 自閉症やダウン症の子供たちと音楽家が即興演奏で交流するドキュメンタリー映画「音の城♪音の海」(服部智行監督)が今月、公開される。音楽療法の記録映画ではない。「音楽の誕生の瞬間」に立ち会える。出演した大友良英は国際的に活躍する多忙な音楽家。寸暇をぬって映画にかかわった理由を聞いた。

 「おれは医者でも教師でもない。ずっと断っていた」という大友が、根負けする形で参加したのは、子供たちと音楽療法家が一緒に演奏するワークショップ「音遊びの会」。最初、大友のあいさつに子供たちはだれも反応せず、音を投げかけても、皿を投げたり走り回ったり。

 「皿を投げるのも音楽だ、というスタッフの言い方にカチンときた。おれは空調の音も音楽に聴くことができるが、それは訓練された音楽家だから」

 楽器を数多く置いて、触らせてみた。鉄琴やピアノなどの鍵盤に女の子は興味を示す。男の子はターンテーブルやシンセサイザーなど機械に。重度の障害のある子が、スイッチのオン/オフをただ繰り返していた。「あ、これなら分かると思った。オンオフの音が不思議でずっといじっているのは、おれと同じ。子供たちも実は音楽を面白がっていたんだ」。数カ月するうち子供の一人が、大友を慰めるように「一緒に踊ろう」と声をかけたという。

 「もうだめ。抜けられない。かわいくなっちゃって」

 ステージを設けると集中度が増した。照明を当て、スタッフの一部は客として聴くことに集中。拍手もしてみる。勝手に指揮者や司会者が現れ、「音楽の萌芽(ほうが)が現れた」と大友は言う。

 半年後、親や観客が見つめる前で、プロの音楽家と共演するコンサートが開かれた。大友とのデュオで爆音ギターを響かせる子供がいる。ブレークダンスと見まごう指揮で、大友らプロの音楽家をまとめ上げる子供がいる。

 子供だけではない、音楽家も変えられた。大友は言う。

 「フリーミュージックだ、ノイズミュージックだといったところで、そのジャンルの開拓当時はともかく、いまや演奏のほんの1、2%の部分で、〈自由〉に演奏しているに過ぎない。ところが、音楽の歴史も社会的な文脈も知らない子供らには『おい、ここでそう来るのかよ』というむちゃな音の瞬間がたくさんある。社会的な文脈、ルールから切り離されているのが、彼らが生活する上で抱える困難の原因なのだから、単純には喜べないのですが」

 29日から東京・渋谷のアップリンクXで公開。(近藤康太郎)

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