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聴覚障害の壁越えセッション 音を振動で伝える楽器開発

2009年7月7日

写真木の箱でできた電子楽器「ビブラション・カホン」(手前と奥)。手や足でたたいて演奏する=愛知県春日井市の中部大学

 聴覚障害の有無に関係なく、一緒にセッションを楽しめたら――。そんな夢をかなえようと、新発想の電子楽器が開発された。奏でた音を振動に変換し他者と伝え合う機能がミソで、楽器に触れた経験のない人も、簡単に演奏できる。8月には体験会が開かれる。

 この楽器は、手で木箱をたたいてリズムを刻む中南米の打楽器「カホン」に、コンピューター技術を採り入れ、機能を拡張した「ビブラション(振動)・カホン」。岐阜県大垣市の情報科学芸術大学院大学で電子楽器を研究し、滋賀県草津市の玩具メーカーに就職した金箱淳一さん(25)が独自に制作した。

 聴覚だけでなく、触覚でも音楽を楽しむことができることを提案する楽器だ。

 仕組みはこうだ。例えば3台のカホンを用意した場合、それぞれの内部にマイクを差し込み、コードでコンピューターと接続。一つのカホンをたたくと、音が振動の信号に変換されてほかの二つに送られ、相手のカホンがポンと震える。同時に複数のカホンがたたかれると、今度は振動が増幅され、下から突き上がるような手応えが伝わる。

 従来の楽器は、音中心のコミュニケーションだったのに対し、この打楽器は、振動によって音を体感で理解できるため、音だけでは伝えられない微妙なニュアンスをやりとりできる。金箱さんは「通常の楽器演奏を楽しむことが困難な人にも、セッションによる一体感を味わってもらいたい」と話す。

 昨年9月、愛知県武豊町で開かれた現代アートの鑑賞会で、金箱さんの楽器に触れた同町議の小寺岸子さん(43)が音楽の敷居を低くする発想に共鳴。音楽教育や社会福祉の研究者、教員、エンジニアら約20人と、普及団体「打楽器インターフェースを楽しむビブラション」を設立した。

 将来的には学校などに普及させることを目指す。まだ発売前で、当面は、体験会を通じてさまざまな人に手に取ってもらうという。

 6月28日に、同県春日井市であった体験会で演奏に加わった聴覚障害者の同県常滑市の新野康子さん(49)にとって、小学校時代、普通学級で受けた音楽の授業はつらい記憶だ。音の高低が理解できず歌が調子はずれになり、いつもクラスメートに笑われた。「この楽器なら、聴覚障害のある子どももみんなで一緒のことができて、成し遂げたという体験を増やしてあげられるのでは」と話す。

 振動が他者との関係を意識させることで、自閉症の子どもたちにもいい刺激になる可能性がある、と期待する専門家もいる。

 同団体は8月30日午前10時から、名古屋市中区の市女性会館でこの楽器の体験会を開催。秋には、同市千種区の県立名古屋聾(ろう)学校で、音楽の授業で演奏に使ってもらう準備を進めており、現在活動を手伝ってくれるボランティアを募集している。(佐藤仁彦)

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