音楽著作権の譲渡話を巡る詐欺事件で、小室哲哉容疑者は、兵庫県の男性投資家に譲渡を持ちかけた806曲のうち少なくとも約20曲の著作権を、本来所有するエイベックス・グループ・ホールディングス(東京)などに無断で、自ら役員を務める芸能プロダクションなど2社に「二重譲渡」していた。すでに異常な契約になっていたが、男性投資家に譲渡すれば「三重譲渡」の事態も起こっていたことになる。未成熟な日本の著作権ビジネスのあり方に議論が起きそうだ。
小室容疑者から205曲の著作権を譲渡されていたエイベックス社によると、日本音楽著作権協会(JASRAC)から昨年末、ヒット曲「DEPARTURES」など11曲の使用料が差し止めになると連絡が入った。芸能プロダクション「トライバルキックス」(東京)がこの11曲を文化庁に登録したことがその理由だった。
11曲は、小室容疑者からトライバル社へ無断譲渡され、文化庁へ登録されていた。エイベックス社は「小室氏から報告がなく、寝耳に水だった」として、トライバル社側と文化庁の登録取り下げを交渉していたが、結論が出ていない。
著作権は作詞や作曲だけでなく、レコードやCDの製作者、歌手や演奏家、放送局にも権利が発生する。権利関係が複雑で使用料の徴収事務が煩雑なため、通常は音楽出版社が関係者の権利をまとめて譲り受け、JASRACに信託している。
JASRACによると、今回の小室容疑者のような二重譲渡は極めて異例。音楽関係者は「普通のケースでは文化庁に登録などしていない。小室氏のように著作権や印税を個人のもののように扱ってきた人は少ない」と実情を話す。文化庁への登録は手続きが煩雑なうえ、費用も高く利用しにくいのが現状という。
著作権ビジネスに詳しい福井健策弁護士は「米国などと違い、日本にはまだ音楽著作権の転売市場もない。小室容疑者らが得ようとした10億円が、高いか安いかの判断は難しい」と話し、「専門家の育成や利用しやすい著作権登録制度の整備など、著作権にかかわるインフラ整備の必要がある」と指摘する。