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大阪の職人シンバル、世界に挑む

2009年7月5日

写真小出製作所社長の小出俊雄さん。完成間近のシンバルに計器をあて、厚みに狂いがないか確認する=大阪市平野区、伊藤恵里奈撮影

 大阪市平野区にある社員4人の町工場が国内唯一のシンバルメーカーとして世界進出を目指している。長年培った金属加工の腕と工夫が、プロのミュージシャンもうならせる音色を生み出すようになった。細かな注文にも応じられる職人技で、世界3大メーカーの一角に食い込む日を夢見ている。

 小出製作所のほの暗い工場内に、青銅板を削る「キィーン」という金属音が響き渡る。高速回転する丸い板に長さ1メートルほどのへら棒を押し当て、削り込む。求められる精度は10分の1ミリ単位。社長の小出俊雄さん(60)が計器をあてて、狂いがあれば、丁寧にハンマーでたたいて微調整する。

 原材料の青銅板はシンバルの発祥地、トルコから取り寄せる。音をよくするために、すずの含有量を極限まで高めているため、素材は硬くて加工が難しい。それを可能にするのが、職人が培ったへら棒の力加減だ。

 1947年創業の小さな工場。鍋、釜では他のメーカーに価格で太刀打ちできず、鉄道車両の部品の製造などを手がけてきた。

 シンバルづくりに乗り出したのは約10年前。小出さんとドラムが趣味の若手社員との雑談の中で生まれたアイデアだった。参考にする資料もないなかで、海外メーカーの製品の材質や構造の分析から始めた。加工の難しさにやりがいを感じ、趣味のゴルフも断って打ち込んだ。「目標がシングルからシンバルになった」(小出さん)。しかし、なかなか思い通りの音が出ず、何百枚もの失敗作で工場の床が埋まった。

 ある日、偶然が状況を一変させた。数カ月前に作った1枚をたたくと、驚くほどいい音に変わっていた。シンバルは成形後、3カ月ほど寝かせる必要があることを初めて知った。開発から4年。03年にようやく販売にこぎつけた。

 その後も演奏経験のない小出さんは、顧客のミュージシャンの意見を頻繁に聞いては、改良を重ねた。

 元「東京スカパラダイスオーケストラ」バンドマスターで、打楽器奏者のASA―CHANGこと朝倉弘一さん(45)は「50年代のジャズのレコードで聴くような音のシンバルがほしい」とリクエスト。通常より薄く、表面の凹凸が深いシンバルが数カ月後届いた。耳に優しい音色が気に入り、レコーディングやライブでたびたび用いている。「大手製は万能だけど没個性になりがち。職人が作ってくれるのは強み」と朝倉さんは話す。

 スティックでたたくドラムセット用だけでなく、クラシック音楽用の開発も進めている。プロオーケストラにコンサートで試してもらい、客席に足を運んで響きを確かめる。

 シンバルは米、カナダ、スイスの大手3社がシェアの9割を占める寡占市場とされる。04年に年間300万円ほどだった売り上げは、昨年には約500万円になった。コストを下げ、年内には米国への輸出のめどをつけたい。「ジャズが生まれ、世界で一番シンバルの売れる国で販路を広げたい」

 愛用者の一人、人気バンド「ウルフルズ」のドラマーで大阪出身のサンコンJr.さん(38)は「メード・イン・オーサカのシンバルが、3大メーカー製と並び立つようになってほしい」と期待する。(秋山千佳)

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