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若返るオーケストラ 団塊定年「音色」どう受け継ぐ

2008年7月31日

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 芸術家に定年はない。とはいえ、オーケストラの団員にはサラリーマン同様、きっちり定年がやってくる。団塊の世代を中心にここ数年、急速にオーケストラの世代交代による若返りが進む。年金や雇用の問題は、各楽団の基盤を築いてきた楽団員たちにもリアルに降りかかり、「音色」という無形の財産のありようにも微妙に影響を与えつつある。

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 業界きってのしにせ、NHK交響楽団では07〜09年の間で、14人の退団が予定されている。現団員は106人。「一気にではないが、さみだれ式にベテランがいなくなり、若返っている印象」(広報)。東京フィルハーモニー交響楽団は昨年、計11人の新入団員を採用した。

 日本オーケストラ連盟の調べでは、今年の3月現在で、加盟27団体のうち19団体が定年制を採用している。

 日本の楽団史をひもとくと、N響の前身、新交響楽団が設立されたのが26年。54年にカラヤンが客演、60年には岩城宏之と外山雄三に率いられて初の世界ツアーに挑む

 70年代には小澤征爾が、日本フィルハーモニー交響楽団から独立して新日本フィルハーモニー交響楽団を創設。若手奏者のパイオニア的な努力が実り、日本の楽団はそれぞれ固有の発展を遂げてゆく。巨匠指揮者の棒と個性的なスター奏者の音が、楽団のカラーを担う時代が始まった。

■積極的にOB採用

 かつて「N響の顔」と呼ばれたホルンの千葉馨さんやフルートの吉田雅夫さんといった世界的な名手も生まれた。千葉さんが定年を迎えるときは、正指揮者の岩城宏之さんが「芸術家に定年はない。残すべきだ」と主張、署名活動が起きる騒ぎにもなった。

 仙台フィルハーモニー管弦楽団は昨年、定年を迎える団員に対し、木管や金管といったセクションごとに投票してもらい、過半数の支持を得た場合に再雇用するという独自のシステムを採用。N響も、子ども向けの教育プログラムにOBを積極登用している。

 しかし、音楽面での円熟とは対照的に「楽器にもよるが、60歳になっても楽団で演奏し続けるのは肉体的にはかなりキツい」と元コントラバス奏者で、九州交響楽団で事務局長を務める今村晃さん。バイオリン奏者は不自然な姿勢を強いられ続け、コントラバス奏者は立ちっぱなし。木管奏者などは金管のラッパの前に陣取っているため、長時間大音量のシャワーを浴び続けることにより、難聴になるケースも少なくないという。

■若手の機動力期待

 一方で、機動力のある若手を獲得したい、という楽団側の本音もある。「技術のある若手を求め、音大に青田買いに行くことも」(日本フィル)。来月3日に開かれる名曲演奏会「N響ほっとコンサート」など、若い観客を意識した企画も増えている。

 ただ、オーケストラが一般の企業と違うのは、「音」という伝統、財産を継いでいくということだ。N響の古谷邦雄常務理事は「サバリッシュやシュタインといったドイツ系の指揮者のもと、N響特有の重厚な音色を培ってきた時代の人材は貴重」。今村さんも「技術のある若手は大歓迎だが、その結果オケの個性が平均化され、似たような響きになりつつある。これはやっぱり寂しい」と語る。

 ベルリン・ドイツ・オペラの首席オーボエ奏者、渡辺克也さんによると「オケ固有の音色の特徴より、柔軟性や機動力を重視するのは世界的な傾向」という。しかし音楽評論家の東条碩夫さんは「いずこの楽団もレベルアップし、演奏される曲のバラエティーも豊かになった。日本のオケが新たな段階を迎えたと前向きにとらえたい」。

 新日本フィルハーモニー交響楽団の首席オーボエ奏者、古部賢一さん(39)はこう語る。「ほかの楽器と調和しながら自らの音を奏でる仕事の神髄は、経験を重ねた楽団員からしか学べない。ベテランが次々に去ってゆく今、そういった理屈じゃない部分を、僕らの世代が受け継いで新しい世代に伝えていかなきゃいけないんだと、責任感をひしひし感じています」(吉田純子)

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