「シューマンの、狂気と紙一重の心のもろさにひかれる」と語るシュタイアー
チェンバロとフォルテピアノの名手アンドレアス・シュタイアーが、シューマンの独創的な解釈に迫る新譜を先月リリース、日本でも公演を開いた。学者並みの知的な原典研究で、古楽界でも一目置かれる存在だが「時代背景を深く知り、分析を深めるほど、音楽がより鮮烈に姿を現してくるのが楽しいだけ」と思いを語る。
80年代、疾走感たっぷりの「ブランデンブルク協奏曲」などで一世を風靡(ふうび)した古楽合奏団「ムジカ・アンティカ・ケルン」の一員に。その後はソロや室内楽で、柔軟に活動の幅を広げている。
現在の関心の的は、バッハという大河がどうシューマンに流れこみ、その個性を育んだか。恋に苦しんでいる時、精神的な病に悩んでいる時。シューマンは常に対位法の研究に立ち戻り、無伴奏チェロ組曲に伴奏をつけるなどしてバッハに改めて向き合っている。
シューマンのみならず、メンデルスゾーンの「無言歌」やショパンの前奏曲など、ロマン派の名作にもバッハは豊かに息づいている。「ベートーベンが、その後も誰も凌駕(りょうが)できないような交響曲を書いてしまったから、ロマン派の作曲家たちは、小品で多彩な宇宙を描いてみせたバッハの対位法の技に救いを求めた」と分析する。
作曲家への愛におぼれぬシニカルな視点も。「音楽家の家系ではなく本屋の息子に生まれたシューマンには、劣等感からバッハの権威を求めたところもあるはず。メンデルスゾーンやシューマンがバッハを知らなかったら、どれだけいい曲を書いただろうと思うことがある。バッハは後世の作曲家たちにとって、恵みであり、永遠に解けぬ呪縛でもあったのです」(吉田純子)