「意外に人生楽しんでます」と語る広上淳一
指揮者の広上淳一が今月、米コロンバス交響楽団の音楽監督の職を任期半ばで辞任した。労使交渉に入った楽団員の側について理事会と対立、最終的にその責任をとった格好となった。「精いっぱいカッコつけたけど、本当は打ちのめされている」。そう無念の思いを語るも、「音楽を愛する心は決してお金に代えられるものではない」と希望を口調ににじませた。
■挫折のたび、再出発
楽団員の人員および給与削減を言い渡した理事会と、5月から対立を続け、最終的な和解を見届けて辞表を提出した。一連の金融危機に端を発したかのような音楽監督の任期途中での辞任は、米国の音楽業界でも話題となった。
「本音を言うと、楽団員が権利ばかり主張する時代じゃないとも感じていた。でも、一緒に美しい音楽を奏でていこうと約束した彼らに、背を向けることはできなかった」
オハイオ州の州都コロンバスで初めて客演したのは05年。楽団員たちの圧倒的な支持を得て翌年、第7代音楽監督に就任した。その証しとも言えるCDが今月、リリースされた。落ちついたテンポで、しかし熱狂的なクライマックスを紡ぐチャイコフスキーの交響曲第5番。ライブ録音の前日に父の訃報(ふほう)が届いたが、帰国せず舞台に立った。結果としてこの1枚は、決別と門出の象徴となった。
挫折はこれが初めてではない。キリル・コンドラシン国際指揮者コンクールで優勝した80年代、同世代の大野和士らとともに国際舞台へと飛躍したが、01年に各国の楽団での要職を返上、1年近くの休養に入る。
「挫折のたび、僕の仕事はみんながいないと成立しないんだ、とかみしめた。そうして目の前にいる音楽家、ひとりひとりを大切にするところから再出発してきた」
現在は京都市交響楽団の常任指揮者、および母校である東京音楽大学教授の任にある。「失敗してボロボロになって、それでも腐らず音楽をやってる姿を、胸を張って学生たちに見せたい」
今月、各地で東京音大の学生オケを率いる。23日午後3時、鎌倉芸術館。24日午後2時、静岡のアクトシティ浜松。28日午後7時、東京・池袋の東京芸術劇場。電話03・3982・2496(音大)
(吉田純子)