見つかった「二つの主題」の生原稿
深沢七郎
「楢山節考」「笛吹川」などで知られる作家、深沢七郎(1914〜87)の初期の未発表原稿が見つかった。ギタリストでもあった深沢のギターへの偏愛がつづられており、小説中に詩のリズムを採り入れるなど、深沢文学の原質を示す貴重な資料だ。
遺稿を整理していた研究者の金子明さんが発見した。「二つの主題」と題した37枚の短編。主人公はギターの名器に魅せられるが、高くて手が出ず、弟と母親が援助をさしのべるといった内容。
深沢は日劇ミュージックホールでギター奏者を務めるかたわら、56年に、姥(うば)捨て伝説に材を取った「楢山節考」で中央公論新人賞を受賞してデビュー。エッセー「自伝ところどころ」に、初めての小説は「アレグロ」という作品で〈それから「二つの主題」というのを書いた〉と記していたが、共に原稿は紛失したとされていた。「二つの主題」は終盤に、49年10月の母親の死のことが書かれており、母の死後まもなく脱稿したとみられる。
「二つの主題」には〈詩を放ち、/文を追はせよう。/よろこびの詩を、/かなしみのつゞりを。強い心と、/弱い心とが、/バッハの遁走曲(フーガ)に似る。〉といった詩がいくつも挿入されている。「楢山節考」では、自作の民謡を随所に配して効果を上げており、韻文を小説に織り込む発想を初期から持っていたことがわかる。金子さんは「音楽的テンポを小説に採り入れようとしている」と指摘する。
深沢文学に詳しい相馬庸郎・元神戸大教授の話 深沢の根本にかかわる存在である、ギターに対する異常な執着を表現している点で貴重。他の小説にはこのテーマは描かれていない。生の感情など叙情性が色濃いのも珍しい。のちに諧謔(かいぎゃく)的な歌をたくさん書いているが、これほど純粋な詩が見つかったのは初めてだ。(小山内伸)