このところの紅白歌合戦のキャッチフレーズではないが、「歌の力」を考えさせられた1年だった。J―POPシーンの陰に隠れがちだった演歌・歌謡曲の世界には新風が吹き、しぶとく生き残る「本物」の魅力に、聞き手は引きつけられた。
最大の話題は、日本人の祖母を持つ米国人演歌歌手ジェロの成功だ。キャップを斜めにかぶり、いでたちはまるでヒップホップ歌手。しかし、敬愛する坂本冬美らにも認められる歌唱力で、演歌の心を伝えた。シングル「海雪」は30万枚を超える大ヒットに。ジェロと同じNHK「のど自慢」出身で、全身を振り絞るように歌う盲目の高校生歌手、清水博正も印象的だった。
61歳のオールドルーキー、秋元順子もブレークした。シングル「愛のままで…」は息の長いヒット曲となり、発売から5カ月余りかけてオリコンの演歌・歌謡曲チャートを上り詰めた。ジャズ、シャンソンなど多ジャンルで鍛え、市中の小さなステージでも地道に歌い込んだ底力を感じさせる歌手だ。
師走に入り、戦後の大衆歌謡の世界を支えた作曲家、遠藤実氏が死去した。「高校三年生」「星影のワルツ」「北国の春」など名曲の数々を人々の心に刻んだ。弔問に訪れた北島三郎が、歌謡界の今後を心配していたという遠藤氏の、こんな言葉を紹介した。「いい歌い手がしっかり歌うことが大事だ――」
■青山テルマ 新鮮な歌声
J―POPの世界にも、新鮮で伸びやかな歌声が響いた。新人の注目株は青山テルマ、Superflyら。青山は「着うたフル」などの配信ダウンロード数で年間ベストワンに輝いた(レーベルゲート調べ)。いまだ姿を見せぬ覆面グループ、GReeeeNも、ドラマの主題歌となった「キセキ」で若者のハートをつかんだ。昨年から話題のテクノポップユニット、Perfumeも着実にステップアップした。
■安室奈美恵 30代で復活
90年代のJ―POPシーンの「主役」の浮沈もあった。復活を遂げたのは安室奈美恵。アルバム「BEST FICTION」は100万枚を突破し、史上初の10代、20代、30代でのミリオンセラーを記録。その安室をかつてプロデュースした小室哲哉は、著作権をめぐる詐欺事件で大阪地検に逮捕、起訴された。
国民的バンド、サザンオールスターズが無期限での活動休止を発表した。この出来事は、オリコンによると、女子高校生が選ぶ今年の10大ニュースの3位にランクイン。ジャンルの細分化が進む中、男女・世代を問わぬ人気を集め、多様な音楽世界を生み出したサザン。リーダーの桑田佳祐はこの冬のイベントで、自らの血肉になった昭和の流行歌を中心に、60曲以上を一人で歌いあげてみせた。
CDなどの売り上げは、98年を頂点に落ち続けている。J―POP、歌謡曲などの邦楽分野はここ数年ほぼ横ばいなのに対して、洋楽は07年以降十数%の落ち込み。今年もコールドプレイ、レディオヘッド、オアシスなど、よく知られた人気バンドは手堅くヒット作を出したが、総じて話題は少なかった。一方でザ・フーの初の単独公演、セックス・ピストルズの夏のロックフェスティバル参戦など、時代の洗礼を受けたベテラン勢の来日が話題になった。
CD不況の中、ライブの入場者数は右肩あがりに伸びている。ここにも別の意味での「本物志向」がうかがえる。(西正之)
■私の3点
今井智子(音楽評論家)
▽鈴木慶一「ヘイト船長とラヴ航海士」
▽原田郁子「銀河」
▽9mm Parabellum Bullet「VAMPIRE」
小倉エージ(音楽評論家)
▽ボブ・ディラン「テル・テイル・サインズ」
▽ザ・ラカンターズ「コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー」
▽「ヘイト船長とラヴ航海士」
高橋健太郎(音楽評論家)
▽バウアーバーズ「ヒムズ・フォー・ア・ダーク・ホース」
▽アル・グリーン「レイ・イット・ダウン〜愛の詩」
▽チャーリー・ヘイデン「ファミリー&フレンズ〜ランブリング・ボーイ」
東郷かおる子(音楽評論家)
▽スティーヴ・ウィンウッド「ナイン・ライヴズ」
▽アデル「19」
▽ジャック・ジョンソン「スリープ・スルー・ザ・スタティック」
萩原健太(音楽評論家)
▽Randy Newman「harps and angels」(輸入盤)
▽ロイ・オービソン「ソウル・オブ・ロックンロール〜ロイ・オービソンの生涯」
▽「ヘイト船長とラヴ航海士」
ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
▽Shelby Lynne「Just A Little Lovin’」(輸入盤)
▽Rokia Traore「Tchamantche」(輸入盤、09年1月国内発売)
▽エイモス・ギャレット「ゲット・ウェイ・バック〜トリビュート・トゥ・パーシー・メイフィールド」