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全盲ピアニスト辻井伸行さん、米のコンクールで優勝

2009年6月8日

写真4日の決勝ラウンドで演奏する辻井伸行さん=米テキサス州フォートワース、バン・クライバーン財団提供写真米テキサス州で7日、バン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝し、写真撮影に応じる辻井伸行さん(中央)=AP

 【ニューヨーク=田中光】生まれつき全盲の辻井伸行さん(20)が7日、米国のバン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した。辻井さんは幼いころから「神童」と注目を集めてきた。中国人男性とともに2人が1位となった。辻井さんはテキサス州フォートワースの会場で「両親をはじめ、サポートしてくれたみなさんに喜びの気持ちを伝えたい」と語った。

 コンクールでは、ショパンなどの曲目をこなし、「神業」と評価を得た。弦楽四重奏との演奏では、頭を振って息を合わせ、最終日の演奏が終わると、何度も「ブラボー」の歓声がわき起こった。

 「とにかく自分の力が出し切れたので幸せです。お客さんが感動してくれたのが一番うれしい。テキサスの観客はとても温かかった」と辻井さん。全盲というハンディについては「障害者というより、一人のピアニストとして聴いてくれた手応えがあるので、それがとてもうれしい」と話した。

 辻井さんは4歳からピアノを習い始めた。音に対する感覚が鋭く、先生が左手と右手に分けて演奏した録音テープを繰り返し聴いて曲を覚えた。筑波大付属盲学校小学部に入学した95年、7歳で全日本盲学生音楽コンクールの1位になり、97年にはモスクワ音楽院大ホールの記念コンサートに出演。00年には台湾でリサイタルを開き、さらに米カーネギーホールの演奏会に出演するなど、国内外で多彩な演奏活動を重ねてきた。東京音大付属高校を経て、現在は上野学園大学3年生。

 高校卒業まで12年間指導した東京音大講師の川上昌裕さんによると、辻井さんの父親は医師で、家族で特に音楽と関係が深い人はいない。2歳のころからおもちゃのピアノで遊んでいて、母親が口ずさんだメロディーを正確に弾いたことに家族が驚き、ピアノを習わせることにしたとの逸話がある。

 マイナスのことを口にしない明るい性格で社交的。コンクールに次々と挑戦する気の抜けない生活が続いてもくじけることなく、前向きに取り組んできたという。

     ◇

 〈バン・クライバーン国際ピアノコンクール〉 冷戦時代にソ連のコンクールで優勝し、後に米国の文化使節として活躍したピアニスト、バン・クライバーンの名を冠した国際コンクール。62年の創設以来、おおむね4年おきに開かれてきた。優勝賞金は2万ドル。3年間のコンサートツアーやCD録音の権利も得られるなど、他のコンクールに比べて受賞後の支援が手厚いことで知られる。日本人の優勝者は辻井さんが初めて。

■聴音感覚、ずば抜けていた

 辻井さんを小学校1年から高校卒業まで12年間指導した東京音大講師の川上昌裕さんの話 昔から聴音感覚がずば抜けていた。運動神経もよく、名人芸的な高い技巧を持ちながらてらわず、その音は純粋で真っ白いイメージ。ハンディを全く感じさせず次から次へと難しい課題に挑戦し、どこまでも頑張る姿に時々驚かされた。大舞台でも安定しており、力を出し切るタイプ。難関で知られる今コンクールで評価されたことは素晴らしい。決勝に進んだと電話をもらったが、優勝と聞いてこれまでやってきたことが間違いなかったのだと安堵(あんど)感を覚えている。

■驚き以上の感動伝える

 上野学園大で辻井さんを指導する横山幸雄教授の話 全盲の彼が見事な演奏をすることに驚く人も多いが、彼は驚き以上の感動を伝えるために勉強を重ねてきた。一線で活動できる演奏家を求めるこのコンクールで優勝したことで、彼がひとりの演奏家としてお墨付きを得たことはとてもうれしい。目が見えないことは一生ついて回るが、そのこととは関係なく、彼の演奏を聴きたいと思う人が増えていってほしい。

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