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荘村清志、熟練の「アランフェス」

2009年7月11日

写真楽器の空洞に響く余韻を聴く。「音色が少しずつ変わっていく。ワインのようでしょ」と語る荘村清志=吉田写す

 「アランフェス協奏曲」のCDを、荘村清志が出した。あらゆるギター奏者の試金石となってきたこの曲を、デビュー以来40年にわたって日本に紹介し続けてきたが、実はこれが初録音だ。61歳にして、満を持しての刻印。「年をとって遊び心を知り、力が抜けた。これからの人生、もっともっとギターと遊びたい」と自然な笑顔で語った。

■61歳で初録音「これからの人生、もっとギターを遊ぶ」

 アランフェス協奏曲は、スペインの巨匠ロドリーゴの39年の作品。マドリード郊外のアランフェスを旅したときの心象風景を描いた。異国情緒たっぷりな第2楽章の旋律がとりわけ有名だ。

 荘村は、スペイン留学でナルシソ・イエペスから受けた教えを礎に、この曲を20代から演奏会で積極的にとりあげてきた。

 当時から録音の話があった。しかし「響きが横にたゆたう」表現のできるオーケストラが見つかるまで、と保留してきた。

 還暦を迎えたころ、所属レコード会社のOBらが、荘村には内緒で録音を企画。資金を集め、スペインで第一級のオーケストラ、ビルバオ交響楽団との共演の道を開く。率いるはチェリビダッケの薫陶を受けたファンホ・メナ。現在、ともに来日公演中だ。

 40代の半ばごろ、なぜか思うように指が回らなくなった。完璧(かんぺき)に弾かないといけないというプレッシャーから、演奏も消極的になった。しかし、このスランプの時間が逆に、音楽をゆっくり咀嚼(そしゃく)し、経験を蓄積することの大切さに気づかせてくれたという。

 「ピアニシモの世界の奥深さに目を開かされた。それまでは、速弾きの快感に身を任せ、何も感じていなかったのだと」

 スペインで聴いたテレサ・ベルガンサ、ロスアンヘレスといった名歌手たちの、みずみずしくホールに響きわたるピアニシモが胸によみがえった。

 10代のころは、ギターという楽器自体が物珍しい目で見られた。だが、黙々と道を切り開いた。後進の木村大や村治佳織らが、その道をさらに広げている。「ギターをマニアの専有物にしなかったのは彼らの功績。頼もしい」

 疲れを感じても、映画館や飲み会には「えいっ」と出かける。好奇心に歯止めをかけず、閉じこもらず。どこにでも足を運ぶのが感性を磨く唯一の道と思うからだ。

 「年をとると感受性が鈍るというのはウソ。若いころより今のほうが世界がきらめいて見える。同じ楽譜を見ても、もっといろんなことが感じられる。10年後は、もっと自由な気持ちで楽器を手にしていると思う」

 8月7〜9日、東京・代々木公園の白寿ホールで「Hakujuギター・フェスタ2009」に出演する。ともにプロデュースを務める福田進一と、ファジル・サイに委嘱した新曲を初演する(9日のみ)。5千円。電話03・5478・8700(ホール)。(吉田純子)

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