2009年11月15日
大滝詠一が81年に発表してミリオンヒットとなったアルバム「ア・ロング・バケーション」を、10人の女性歌手がカバーした。このカバー版「ロング・バケーション フロム・レディース」は、“ヒット曲の耐用年数って何年だろう”という大滝の問いかけへの、ひとつの答えかもしれない。
「君は天然色」は旧知の大貫妙子が歌った。「カナリア諸島にて」の今井美樹、「恋するカレン」のつじあやのなど、ぱっと聞けば歌い手がわかる個性派たちと、趣向を凝らした編曲。「さらばシベリア鉄道」を鈴木祥子が、太田裕美は「FUN×4」を担当しているのも一興だ。
珍しくインタビューに応じた大滝は「みなさん、いいですね。僕はカバー企画を断ったことはない。僕自身、レイ・チャールズの『ホワッド・アイ・セイ』やビートルズの『イエロー・サブマリン』を音頭にしてる。どんな解釈だってありえるし、その精神性が楽しい」と語る。
84年の「イーチ・タイム」以来、オリジナルアルバムを発表していない。シングルは今のところ03年の「恋するふたり」まで。
「70年代からアルバムアーティストと称してきて、今もベンチにはいるけれど、試合に出る意欲は、ない。それは王さんにいま打席に立って打てと言うようなもの」
マスタリングエンジニアとしては、2011年に向けて「ロング・バケーション」のリマスターに取り組み続けている。「最初にできた頃、ヒット曲は3年ももてばいいと思ったが、10年たったとき『20年はもつ』と豪語してしまった。30周年を前に今回のような企画をやっていただいたのはうれしい」
「ロング・バケーション」を日本初のCDとして出したり、80年代から音楽のデータファイル化時代を予見して原盤権のことを考えたり、音楽界を大局的に見てきた。世代を超えたヒット曲がない現代について聞くと「その一年を象徴する流行歌があったのは、せいぜいここ数十年。大衆のマグマをぶつける対象は、歌だけとは限らない」。
自発的に新曲を出すつもりはないが「頼まれれば打席に立つ。でも、頼まれないんだよなあ」。(藤崎昭子)