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チュマチェンコが語る音楽教育「まず人として育てたい」

2010年3月13日

写真拡大アナ・チュマチェンコ

 ユリア・フィッシャー、アラベラ・美歩・シュタインバッハー、リサ・バティアシビリ……。現在のバイオリン界を彩る新星たちのプロフィルには、指導者として決まって、その人の名がある。アナ・チュマチェンコだ。ひとりの演奏家としても成熟した歩みを続けている。「音楽であろうが何であろうが、指導者には人間を形成する使命がある」。来日公演を機に、自身の教育理念を語った。

 イタリアに生まれ、16歳までアルゼンチンで育った。伝統に押しつぶされず、のびのびと音楽を吸収した。

 一方で、アルゼンチンに亡命して移民となった欧州の巨匠たちから、薫陶を受ける機会も少なくなかった。北部の田舎の大学に、ピアニストのギーゼキングの授業を見学しに行ったこともある。

 「生徒は、演奏家としてではなく、まず人間として育てたい」。感性豊かな時期に演奏漬けにならず、文学、絵画、演劇に心を揺り動かすことの大切さを実感している。

 だからこそ、コンクールに対しては慎重にならずにいられない。「勝つこと、優勝することは、芸術家の人生においては実に小さなこと」

 バティアシビリは10代半ばでコンクールに出場したが「練習へのモチベーションが人一倍高い彼女の持ち味を、コンクールが伸ばしてくれると思った。でも、誰にでもあてはまるわけではない」。

 生徒の個性に応じ、どうレパートリーを広げさせるかを考える一方、若い作曲家と交流させ、創造の現場に身を置かせることも大切だと思っている。「モーツァルトやベートーベンの時代には、演奏家が自然に創造のプロセスにかかわっていた。今は意識して作曲家との間の壁をなくしていかなければいけない」

 恩師シャンドル・ベーグに言われた一言が今も心に残っている。「アナ、君は誰のコピーでもない。言う通りにしなくていい。自分の道を行きなさい」。音楽家という仕事の本質を示された気がした。

 世界中に羽ばたいた生徒たちを「家族」と呼ぶ。そして自らを、彼らがいつでも戻ってこられる「故郷」とも。

 「演奏家として生きるプレッシャーに、誰しも耐えきれなくなることがある。彼らが素に戻れる場所、安らげる場所をつくるのも私の仕事」(吉田純子)

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