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脱・商業主義 古楽で バイオリニスト・バンキーニ初来日

2010年4月9日

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 クイケンやアーノンクールら、古楽界の第一人者たちに認められながらも、商業ベースから一線を画して活動するバイオリニストがいる。スイス生まれのキアラ・バンキーニだ。手兵の古楽集団「アンサンブル415」を率いて先月に初来日、東京と大阪で公演を成功させた。「時代のスピードに流されないよう、自らの手でレパートリーを切り開いていける古楽の道を選んだ」と語る。

    ◇

 東京・銀座の王子ホールで開かれた公演では、めったに演奏されないボッケリーニの「スターバト・マーテル」を奏でた。派手な身ぶりもパフォーマンスもなく、息の長い旋律をメンバー全員が大きな呼吸で歌い継ぐ。約300席のホール空間がそのままいにしえの時代へと運ばれたかのような、ゆったりした空気が流れた。

 同楽団は1981年結成。名称は、バロック時代の代表的な音高、415ヘルツで演奏することにちなんだものだ。

 かつては現代楽器を手にしていたが、お決まりの名曲ばかりを押しつけられることにうんざりしていた。「皆と同じ、均質な演奏家になってしまう」との危機感が募った。マイナス点を探すコンクールも肌に合わなかった。

 そんな折、アーノンクールのワークショップに足を運んだ。ジャズのセッションさながらの丁々発止。いつしか自身も楽器を手に、仲間入りしていた。「これだ!」

 クイケン率いる古楽の先鋭集団「ラ・プティット・バンド」に加わるとともに、イタリアの理論書や文献を読みあさり、人間の声のように楽器で歌う方法を徹底的に探った。それはそのまま、見てくれの華やかさや超絶技巧によるカタルシスを喧伝(けんでん)する商業主義への反発でもあった。

 「人生それぞれの段階にふさわしい仕事を選ぶことで、常に自分の足で立ちつつ、新鮮な発見を続けてこられた」

 ハルモニアムンディなどの名レーベルから企画性の高いCDを出す一方で、多くの国際音楽祭に出演、指導にも意欲を燃やす。とりわけ、即興の大切さを熱く説く。「自分の裁量で自由に弾く。これが古楽の特徴であり、音楽の本来あるべき姿だと思うから」

 現代はネットを通じ、CDを買わずとも世界中の名演を聴くことができる。しかし「芸術に携わる人間が、安易さに満足するのは間違っている」と語る。図書館で独り、じっくり原典に向き合ってきた時間と経験に育てられてきた、との自負があるからだ。

 「自分が自分であるために、情報に流されない努力をする必要がある時代。だからこそ、私は意識的に不器用に生きているんです」(吉田純子)

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