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時流に抗しぜいたくに ブンブンサテライツ2年ぶり新作

2010年6月5日

写真:ブンブンサテライツの中野雅之(右)と川島道行=中嶌英雄氏撮影ブンブンサテライツの中野雅之(右)と川島道行=中嶌英雄氏撮影

 丁寧に労力をかけて良いアルバムを作る。そんなの音楽人なら当たり前、とは言い切れなくなったという時流に、ブンブンサテライツは新アルバム「TO THE LOVELESS(トゥ・ザ・ラブレス)」で異を唱える。2年がかりでデジタル音、生楽器、街のざわめき、そしてボーカルを丹念に重ねた70分間の大作は、聴き手の感情や意識に潜む未知の回路を開く刺激に満ちている。

 プログラミングとベースを担当する中野雅之とボーカル・ギター担当の川島道行が、大学時代に知り合い結成。1997年にベルギーのレーベルからデビューし、国内外で活躍してきた。

 中野は言う。「子供の頃に聞いていた米国などの音楽は音の彫りが深くて、1枚に対して人材や予算が十分注がれていることを感じさせた。CDバブルがはじけた今では、音楽ビジネスの中心地だった米国でさえ粗悪な制作姿勢が出てきて、音楽はタダと考えるリスナーも増えた。音楽が、映画や文学といった知的エンターテインメントに対抗していくためにも、自分たちがまずぜいたくに時間をかけて良い作品を残そうと考えた」

 志と技量を注ぎ込みながらも、基本はエンターテインメント、と2人は言う。「街の音を意識的に入れているのは、聴く人の生活や人生に寄り添う作品にしたいから」と中野。作詞を担当する川島も「聴く人を選びたくない。自分たちはあくまでも多くの人と結びついていきたい」と話す。

 シベリア抑留から生還した詩人石原吉郎や、“酔いどれ詩人”のチャールズ・ブコウスキーに影響を受けているという川島。焦燥と希望が交差する奥行きのある世界を描き出す。「わかりやすいメッセージや私小説的な内省を書き散らすことは誰にでもできるけれど、僕は自分の中で世界が広がっていくような詞が好きなので……」

 信念を静かに語る2人は求道者のたたずまい。中野は言う。「一枚一枚、新しいものを生み出す作業は、苦痛も伴うし、退屈することもある。一つの頂点で解散したり、ルーティンと割り切ったりする人もいるけれど、『ここでおしまい』とは悔しくて言いたくない。僕らは頑張ります。すごくシンプルな話ですが」

 ステージに出れば、フロアをがんがん揺らすビートをたたき出す。16日から水戸を皮切りにツアーが始まる。フジロックフェスティバルにも8月1日に出演する。(藤崎昭子)

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