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死の直前、「新スリラー」極秘撮影 ダンスのキレ健在

2009年6月30日

写真今回の「スリラー」のミュージックビデオ撮影で、ジャクソンさんと一緒に踊ったダンサーたち=米・ロサンゼルス近郊で、徳永さん提供写真徳永優子さん=Miki Horiguchi撮影

 25日に急死したマイケル・ジャクソンさん(50)が亡くなる直前、7月のロンドン公演で披露するはずだった代表作「スリラー」のミュージックビデオの撮影に臨んでいた。その現場に、ロサンゼルス在住のヘアスタイリストの徳永優子さん(47)が立ち会って、ジャクソンさんの「最後の雄姿」を見届けていた。切れのあるダンスは健在。だが、撮影の合間は終始ガードマンに守られ、モニターの映像を見つめる姿は寂しげでか弱い印象だったという。

 「明日の都合はいいかい? 面白い仕事があるよ」。5月31日、親友のメーキャップアーティストから突然、仕事の依頼を受けた。内容は分からないまま。スターの仕事では秘密が多く、8年前からハリウッドで活動する徳永さんにとって不思議なことではない。「どんな大物が来るんだろう?」。わくわくしながら引き受けた。

 神戸で美容師として働いていた徳永さんは01年に渡米し、映画「ラスト・サムライ」などで衣装コーディネートなどを担当。昨年、米国テレビ界の最高権威「エミー賞」にノミネートされた。

 仕事の現場は、ロサンゼルス近郊の「カルバー・スタジオ」だった。飛行機の格納庫のような天井の高い巨大なドームで、その中に大がかりな墓場と森のセットや、壁や床が緑一色に塗られた空間があった。

 ビデオの撮影らしいことはわかった。スタッフは通常の倍近い約200人。「これはとんでもない大スターに違いない」。間もなく、スタジオに流れた曲でピンと来た。「スリラー」だった。

 「ピザが到着したぞ」。スタッフが叫び、スタジオが静まりかえった。現れたのがジャクソンさん。無線などで名前を言ってしまうと、盗聴したカメラマンらが押しかけることがあるため、隠語が使われるのだという。スタッフによる撮影も禁止。この時初めて、ロンドン公演で流すスリラーのビデオの撮影ということがわかった。

 80年代につくられたスリラーのビデオは、墓場からよみがえる「ゾンビ」を従えてジャクソンさんが軽快に踊るつくりが人気を呼んだ。今回はCGも駆使して一層、怖さを引き立たせようとしたという。映像は特殊な眼鏡をかけると、ジャクソンさんらが立体的に浮き上がるような工夫が施された。ロンドン公演でジャクソンさんがステージで歌う間、背景のスクリーンでその映像を流し、観客に特殊な眼鏡を配って楽しんでもらう予定だった。

 撮影に臨むジャクソンさんは、真っ赤な革ジャンに真っ白な極細の革ズボンと白い靴。ちりちりで油っぽく仕上げた髪。かつてのビデオで披露した格好を再現していた。

 ダンスは年齢を感じさせない鋭さがあった。ひざをくの字に曲げながら踏む独特なステップは余分な動きはない。だが、当時のワイルドさは感じられなかった。

 撮影が一区切りつくたびに、ジャクソンさんはいすに腰掛け、モニターをじっと見つめた。時折、監督と言葉を交わすだけで、ひじ掛けに手をそっと乗せてほとんど動かなかった。

 徳永さんはゾンビ役のバックダンサーのヘアメークを担当。ジャクソンさんには、男性の専属スタイリストたちが付き添い、屈強な黒人のガードマンが周りを警戒していた。「やっぱり世界のマイケルなんだと思ったけど、とても窮屈そうで、孤独に見えた」と言う。ジャクソンさんがモニターで映像を確認する時、3メートルぐらいまで近づいたことがあった。「思ったよりか細くて小さかった」

 今月10日で、撮影は終了。その2週間余り後、突然の悲劇が訪れた。徳永さんはジャクソンさんの死をこう振り返る。「年老いていくよりは、音楽界の神様のまま終わったようで、マイケルらしかったのかなと思う。最後に一緒に仕事ができて光栄です」(関根和弘)

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