真打ちに昇進した女性講談師、日向ひまわりの高座=東京・浅草演芸ホール、阿古慎一郎撮影
「宇宙戦艦ヤマト」森雪の声優、一龍斎春水
釈台を前に張り扇を高く鳴らし、「赤穂義士伝」や「国定忠治」を滑らかな名調子で読み上げる。講談は男の世界を男が語る「男性的話芸」と言われたが、いまや女性講談師が過半を占める。「女流」と呼ばれた女性講談、どうして「主流」となったのか。(井上秀樹)
■先人活躍、華で勝負
男性27人、女性35人。東京を中心に活動する講談師の内訳だ。今春、真打ちに昇進した日向(ひゅうが)ひまわり、神田阿久鯉(あぐり)の2人とも女性。過去5年に講談協会と日本講談協会に入門した新人は女性8人に対し男性2人。近い将来「男流」が作られかねない勢いだ。
同じ話芸なら、NHKの連続テレビ小説のヒロインのように、女性落語家も増えてはいる。が、400人を超える東京の落語家の中で、女性は20人もいない。
講談協会の前座、神田すずは、一般向けの講談教室を経て入門した。落語でなく講談を選んだのは、軍談、世話物、怪談、立志伝など様々な物語や人物を演じられるところにひかれたからという。
女性講談師の歴史は意外と古く、全盛期の19世紀前半、江戸後期にはいたらしい。明治以降も何人かの女性が講談に挑んだが、大成しなかった。
現役では68年入門の神田翠月(すいげつ)、宝井琴桜(きんおう)の芸歴が最も長い。79年、二代目神田山陽に陽子、紫、紅ら劇団や俳優養成所出身者が相次ぎ入門し、「女流講談」がブームに。90年代には一龍斎(いちりゅうさい)春水(はるみ)(麻上洋子)、一龍斎貞友(ていゆう)(鈴木みえ)と、人気アニメ声優の転身が続いた。
俳優から転じた神田すみれによると、女性講談師はある程度技術が身につけば、宴会やパーティーの司会、新作講談の依頼など仕事の口が多いという。「男性は腕がないと呼んでもらえないけど、女性は華があるからでは」
演芸作家の稲田和浩氏は「陽子や紅たちの活躍で、女性が入りやすくなったと思う」と話す。半面、男性の入門者が少ないことについて「講談はもともと都市限定の芸。全国区のスター不在では志望者は集まらない」と指摘する。
■幅広げる努力背景に
同じ語りの芸でも、義太夫や浪曲では昔から女性が活躍している。中堅の男性講談師、宝井琴調は「講談は男が作った世界。侠客(きょうかく)物とか軍記物は男の声が向いている」という。「山内一豊の妻」のように女性が登場しても出番は少なく、物語が「男目線」で語られることが多い。
だから「女流講談」が人気となるには、従来にない講談で幅を広げるそれぞれの努力があった。女性が主人公の新作を考えたり、日本舞踊や剣舞、フラメンコを取り入れたり、音楽や照明を演出に用いたり。
落語芸術協会所属の女性講談師では初めて真打ちになったひまわりは、「間や呼吸、客の心をどうつかむか、出番の多い寄席で学びました」という。高座では男か女かを意識しない。ただ、「男性の高い調子や張りつめた声は出せない」といい、これからは男性講談師が増えることを期待する。
女性ばかりになると「男の声に適した古典演目が演じられなくなり、話芸が失われるのではないか」という懸念もあるが、稲田氏は、ベテラン琴桜の「男の講談」を評価する。「女性には男性のネタを男性の演出でやることはできない、と一概には言えないと思う」
「70歳で一人前」といわれる世界。女性講談師の真価がわかるのは、むしろこれからだろう。
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「宇宙戦艦ヤマト」の森雪で知られる声優、麻上洋子が一龍斎貞水に入門したのは92年のこと。初めて聴いた講談で「客と一体となって話を進め、客の反応がダイレクトに返ってくる。これだ!」と目覚めた。一龍斎春水と名乗り、「ヤマト」を講談にしたり、樋口一葉や金子みすゞの一生を語ったりしている。
「私の声で表現するという意味で、声優の先に講談があるんです。『二足のわらじ』の意識はありません」。落語家という道もあったのでは、と聞くと「笑わせるより心に感動が残るものを語りたかったんです。それに、男性の客は女性を見て、大声で笑うことにはばかるところがありませんか?」。
貞水には「台本ではつまらない話を、聴かせる話にするのが話芸だ」と言われた。「女だからではなく、話芸のすばらしさで聴いてもらうのが理想です」