2009年7月4日
■マンガ原作者書き下ろし作
市川海老蔵が、東京・新橋演舞場で8月に上演される歌舞伎「石川五右衛門」で主人公の五右衛門を演じる。亜樹直名義でマンガ「神の雫(しずく)」の原作を手がける樹林(きばやし)伸さんが、海老蔵をイメージしながら原作を書き下ろした。海老蔵の父、市川団十郎も共演する。海老蔵は「歌舞伎制作の常識を打ち破りたい」と話す。
海老蔵は昨年4月、四国こんぴら歌舞伎大芝居で「暫(しばらく)」を演じた。これを見に来ていた樹林さんと知り合い、意気投合。海老蔵がマンガ、アニメ好きだったことも手伝い、原作を引き受けてもらった。
「石川五右衛門」では、こそ泥だった五右衛門が天下の大盗賊となり、時の権力者・豊臣秀吉に挑む姿を描く。
「普段の歌舞伎制作だと、歌舞伎として保存する意識から冒険はしづらい。定石に落ちて、似通った作品になりかねない。マンガ原作者なら、歌舞伎制作の常識を打破できる。打破されたものが制作の常識になっていってくれればいい」と、海老蔵はいう。
五右衛門像を語り出すと、閃光(せんこう)のように言葉が出る。
「善は、悪との対立のうちに初めて善となる。その善が悪を装っている場合、善を助けるには、もっと強い悪を対立させて善を強めなければいけない。強い悪に徹することが、最善の行いといえる場合もある。これを五右衛門を通して表現したい」
歌舞伎で五右衛門といえば、「絶景かな」で始まるせりふが有名な「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」のそれ。秀吉(劇中では真柴久吉)への復讐(ふくしゅう)を狙う大悪党の、したたかな活躍が喝采を浴びてきた。だが、海老蔵が今回目指すのは、悪の秀吉の内面に眠る善を目覚めさせるため、五右衛門は徹底して悪をなす、との解釈なのだ。
この発想は市川団十郎家の歌舞伎十八番でも生きるという。「十八番の勧善懲悪は、絶対悪があると引き立つ」
昨年1月、新橋演舞場で「雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)」を上演した。海老蔵はこの時、錦絵を参考にして演出を練った。歌舞伎は、錦絵やマンガ、アニメと一脈通じるものなのか。
「どれも、誇張と飛躍の世界。現代に生きる役者が現代のマンガ原作者と一緒に作品をつくれることがうれしい。五右衛門のように、この芝居で皆さんの心を奪いたい」
8月8日から同27日まで。ほかに中村七之助ら。川崎哲男・松岡亮脚本、藤間勘十郎振り付け・演出。3千〜1万6千円。電話03・5565・6000(松竹)。(米原範彦)