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独参湯 大入りの特効薬

2010年3月27日

 万病に効く漢方の薬湯を指す。歌舞伎ではかつて「仮名手本忠臣蔵」が比喩(ひゆ)的に「芝居の独参湯(どくじんとう)」などと呼ばれた。不人気、不況下での劇場経営難の折でも、大入りをもたらす特効薬の演目だったわけだ。

 現代、独参湯と言える演目は見あたらない。4月でいったん閉場する東京・歌舞伎座の入りは、毎月好調とか。“大棚ざらえ”のような狂言立てなどは品に欠けるが、「さよなら公演」という看板が一種の独参湯なのだろう。

 歌舞伎は、江戸期の大衆芝居の性格を現代まで引き継ぐ。だが、次第に古典化し、この数十年では六代目中村歌右衛門の至芸に代表される、高く、強く、深い古典美も放つまでになった。

 今月の歌舞伎座で上演中の「道明寺」は、古典美を継ぐ近年まれに見る名品だ。片岡仁左衛門の菅丞相(かんしょうじょう)は、親子の情や運命の非情などを、歌舞伎の枠組みの中で、時空を超える普遍的なものとして表現した。

 観客層、役者の芸質などを考えると、目先の活況とは裏腹に、歌舞伎の古典美の将来は明るくない。仁左衛門の「道明寺」は、そこに一筋の光をあてた。が、こうした芸が独参湯になる時代は来るのだろうか。(米原範彦)

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