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文楽の伝説、山城少掾再び CD復刻次々

2008年8月15日

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 文楽に伝説の大夫がいる。豊竹山城少掾(とよたけやましろのしょうじょう)。近年、彼のCD復刻が後を絶たない。語り口は重厚にして鋭く、音遣いのパターンは無限大。人物の語り分けは原色の差異のように際やかで、物語は鋼の理知で彫られてゆく。さながら細密工芸の館だ。(米原範彦)

 山城の真骨頂は、例えば「日本音楽の巨匠 義太夫 豊竹山城少掾―菅原伝授手習鑑〜道明寺の段〜」(コロムビア)。厳粛な語り口が心理をくりぬく。自分のために犠牲になる人への思いと大宰府へ配流される憂き目。山城は菅丞相の苦衷を重層的にあぶり出す。

 物語の構造は、X線写真のように明晰(めいせき)に現れる。耳をそばだてると「あ〜」「え〜」「い〜」「お〜」「う〜」の母音群が無数の音色を響かせているのだ。

 ただ、名演は大夫だけではかなわない。三味線の四代目鶴澤清六も枢要な位置にいた。清六は有吉佐和子の「一の糸」のモデル。文楽の演者を撮った土門拳の写真集を見ると、修業のすさまじさが伝わってくる。「道明寺」でも、裂帛(れっぱく)の気合が込められている。

 ビクター伝統文化振興財団(現・日本伝統文化振興財団)の12枚組みCD「義太夫選集/豊竹山城少掾」は網羅的だ。「義経千本桜 鮓(すし)屋の段」「一谷嫩(ふたば)軍記 熊谷陣屋の段」などを収録。早稲田大学演劇博物館が復元再生した5枚組みCD「復元 幻の『長時間レコード』山城少掾 大正・昭和の文楽を聞く」は貴重な「鎌倉三代記」を収める。秩父宮家から掾号を授かったのが47年。古靱(こうつぼ)太夫の名で演じている盤も少なくない。

 「パフォーマンスは生に限る」という。義太夫節もしかり。だがCDが素晴らしければ、生はそれを上回るというのも道理だ。山城は、武智鉄二や三島由紀夫ら、生に接した芸通を感動させた。

 内山美樹子早大教授(演劇学)は言う。「山城少掾は、演目の初演者の芸風を意味する『風(ふう)』、つまり古典的規矩(きく)を体現した。芸は品格に富み、卓越した心理描写の底にヒューマニズムもあった」

 浄瑠璃の格式の表現に「河東裃(かみしも)、外記袴(はかま)、半太(夫)羽織に義太(夫)股引(ももひき)、豊後かわいや丸裸」という句がある。だが、山城の義太夫節は「股引」の気分は少なく、崇高の空気がみなぎる。近現代の分析眼で、江戸時代の人物像や人間関係を解体し、再構築する姿が見える。その過程にこそ古典性が生まれたのだ。

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