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哀切極まる六条御息所 観世銕之丞が舞う「野宮」「葵上」

2008年10月3日

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写真観世銕之丞

 かつて激烈な妬心(としん)に生き霊と変じた高貴な女性が、秋さびた風を感じながら、遠くにかすむ昔日の愛の姿をなぞろうとする。六条御息所は「源氏物語」中、最も美しく悲しい女性だろう。彼女は能作者の霊感も触発、「野宮」「葵上」が生まれた。この両曲を、能楽師、観世銕之丞(てつのじょう)が相次いで舞う。「男女の愛は業が深く、底のない苦しみです。結界と火宅の両方を生きた御息所を描き出したい」と語る。

 「野宮」は里の女が後に御息所の霊となり、往時を懐かしみつつ、源氏の正妻葵上との車争いで敗北したことが執心だと、旅僧にかこつ。心は迷ったまま曲は終わる。「葵上」は、もののけにとりつかれた葵上の元に、車争いの敗北、源氏の愛を失ったことへの無念から生き霊となった御息所が現れ、後に鬼女となるが、小聖(こひじり)に調伏され退散。いずれも愛の喪失と渇望が女の哀切を極まらせる。

 「御息所は慎み深さ、芯の強さ、プライドの高さゆえに、己の嫉妬(しっと)深さに恥じ入って、人格が分裂してしまう。高貴、愛の純粋性は両曲に通じる」

 時系列で言うと、「葵上」「野宮」の順。「『野宮』の御息所は、自分の魂を封じ込める結界を心の中にもっていて、榊(さかき)をお供えする信仰行為は愛そのもの。邪魔者は排除する。念力で時間を止めたような感じ」

 伯父の観世寿夫(ひさお)、栄夫、父の先世銕之丞の「野宮」を見て、それぞれに感銘を受けたという。

 「寿夫は女性の情念を描くのに尋常でない情熱があった。バキッと折れそうで、きらめいていた。栄夫は人間の苦しみを感じさせ、父は切なくいとおしい御息所」

 「葵上」では「申楽談儀」にも記されている古い小書(こがき)(特殊演出)を採用、御息所の破れ車や侍女の青女房も登場させる。比較的分かりやすい曲で、最後の鬼女の退散ぶりは能「鉄輪」にも通じる。

 「野宮」は10日午後6時から東京・水道橋の宝生能楽堂で、「葵上」は14日午後6時から薪能として東京・新宿の新宿御苑イギリス風景式庭園で。電話03・3401・2285(銕仙会)(米原範彦)

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