現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 舞台
  4. 落語
  5. 記事

「静」のさん喬、「動」の権太楼 認め合い磨く寄席

2009年8月9日

写真拡大柳家さん喬が選んだのは「ネタおろし、蔵出し。この会を利用してできるネタ」=井上写す写真拡大柳家権太楼が選んだのは「楽しいフレーズのあるネタ」=井上写す

 その高座を見ぬ日はないほど、落語協会の寄席に欠かせない存在となった柳家さん喬と柳家権太楼。2人がネタ出しし、長講で交互にトリを務める特別興行が8月中旬、東京・上野の鈴本演芸場の夜席である。年齢、入門ともほぼ同じ両者に聞く、ライバルと寄席について――。

    ◇

 2人が目玉となる東京での寄席興行は数多い。新宿の末広亭では88年から年末に二人会を開いており、池袋演芸場でも不定期に催していた。鈴本は99年から始まった。最近は地方公演でも2人の会をしている。

 芸風は対照的だ。細かく心理描写をするさん喬が「静」、デフォルメの効いた権太楼は「動」。62歳の権太楼が1歳年長、67年入門のさん喬が3年先輩だ。

 もちろん、お互いを評価している。さん喬は「どこで笑わせるか、咄(はなし)の重要なポイントをつかみ込み、自分のものにしている」。権太楼も「客の心理を読み、状況を知らしめる演出をする。目線と間を同時に完璧(かんぺき)にさせている」。

 といって、芸論を語り合うことはほとんどない。それどころか、打ち上げも別々に開くという。「負けたくない」とのライバル心は消えていない。

 「プライベートで迎合すると、妥協して戦わなくなる」とさん喬。権太楼も「認め合っていたら、口をきかなくてもいいんです」。仲良し同士の落語会が目立つ昨今の風潮への警鐘にも聞こえる。

 寄席へのこだわりも強い。さん喬は言う。「自分の落語会だと客にも多少の身びいきがある。寄席の客はつまらなければ笑わない」。権太楼は、実力ある落語家が出演し続けることで中堅以下の目標が高くなるという。「伸びている若手はみな、寄席に出たくて芸を磨いている」

 鈴本演芸場の席亭、鈴木寧さんは「客を楽しませながら少しずつネタを工夫している。毎日聞いている僕が楽しみ」と話す。寄席に出ていないと不安に駆られたさん喬と、二つ目時代に寄席に出られず悩んだ権太楼。定席での特別興行は、寄席を大事にする2人にふさわしい。

 「鈴本夏まつり吉例夏夜噺 さん喬・権太楼特選集」は11〜20日、午後5時20分開演。3500円。電話03・3834・5906(鈴本)。(井上秀樹)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内