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ヅカ★ナビ!

「黄泉の帝王」完成の域に 宝塚月組「エリザベート」

2009年7月10日

  • 中本千晶

写真拡大宝塚大劇場公演「エリザベート」より=撮影・岸隆子

 7度目の再演となる宝塚月組「エリザベート」。瀬奈じゅんが演じる黄泉の帝王「トート」を宝塚大劇場で観たとき、「タカラヅカ版のトート閣下像も、いよいよ完成の域に達したな」という印象を強く持った。

 というのも、ウィーンから輸入されてきたこのミュージカル、もともとの主役はトート閣下ではなく、タイトルロールでもあるハプスブルグ王朝最後の皇后「エリザベート」なのだ。
 1996年にウィーンで観劇した「エリザベート」のパンフレットを紐解いてみても、配役の一覧は「エリザベート」「ルキーニ」「トート」「フランツ・ヨーゼフ」の順になっている。

 いっぽう、タカラヅカでは男役トップスターが主演をするという大原則があるから、エリザベートの人生を翻弄する黄泉の帝王「トート閣下」が主役である。
 個人的には、もともとの設定をくつがえし、「死」の象徴が主役を張るのはムリがあるのではないかと、心のどこかでずっと思ってきたところがあった。

 ところが、歴代のトート閣下による役作りの工夫の積み重ねとともに、この役は進化していった。そして、7代目の瀬奈トートに至って、いよいよ「タカラヅカの男役ならではの」美学を結集したトート像ができあがりつつある、そのことに深い感慨を覚えたのである。

 ここで、歴代のトートを演じた男役トップスターを振り返ってみよう。

 1996年   雪組  一路真輝
 1996〜7年 星組  麻路さき
 1998年   宙組  姿月あさと
 2002年   花組  春野寿美礼
 2005年   月組  彩輝直
 2007年   雪組  水夏希

 あらためて振り返ってみると、やはり豪華な顔ぶれだ。
 歴代のトート役者は、髪型やメイクなどの外見から、内面の表現に至るまで、それぞれの個性が最大限生きるよう工夫をこらしてきた。「今回はどんなトートがみられるのだろう?」というのが再演のたびに話題になった。

 だが、大きな流れでいうと、歴代トートの変遷は、「黄泉の帝王という、人間離れした絶対的な存在」としてのトートと、「神でありながら、生きた女性を愛してしまう、ひとりの男としてのトート」との間を揺れ動く過程であったように思う。

 初演で一路真輝がつくりあげたトートは、どちらかというと、妖しく美しい「神トート」であった。それが回を重ねるごとに、「男トート」の色合いが増してくる。
 とりわけ、2002年4代目の春野トートのあたりから、「男トート」の持つ「危うさ」「弱さ」も垣間見られるようになり、トートという役はより複雑な味わいを持つ役と化していったのだ。

 そして今回、7代目の瀬奈トートはというと、どちらの極への触れ幅も大きく、なおかつ両極の間で絶妙なバランスの取れた、「完成度の高い」トートであったと思う。
 このトートならばエリザベートも迷わず飛び込んでいけるだろう、という説得力十分の、美しく、強く、優しいトートであった。
 それは、瀬奈自身の男役としての円熟のなせる業であると同時に、歴代トートの試行錯誤の集積の結果でもある。

 トートというひとつの役に「男トート」「神トート」の2極を創り出したことが、タカラヅカ版エリザベートの最大の特色だ。
 この図式は、初演時からはっきりしていたわけではないだろう。回を重ねるごとに「発見」されていったのである。

 加えて、この両極に、タカラヅカの「男役」という特殊な存在が挑んでいく、そこにタカラヅカ版のトート役の醍醐味がある。
 生身の男ではなく「男役」が創り上げていく「男トート」ならではの色気とカッコ良さ。そしてまた、タカラヅカの「男役」だからできる「神トート」の人間離れした美しさ。
 時とともに、役者とともに、成長し、進化し続ける「エリザベート」。その過程をダイレクトに見守り続けることができる、そこに、この作品が多くの人を惹き付けてやまない理由があるのだろう。

 東京宝塚劇場での公演は、いよいよ今日から。
 この夏、日比谷がアツい!!

レベル:
★★★(上級編)
分野:
エリザベートを極める
対象:
「歴代の○○」といわれると、思わずすべて暗記せずにはいられないマニア癖のある人。

ステップアップのための宿題:
今回、トートを演じる瀬奈じゅんは、2002年の花組ではルキーニ役を、2005年の月組では、何とエリザベート役を演じた経験があります。エリザベートとトートの両方を同じ役者が演じるというのもタカラヅカならでは。過去の公演DVDも出ていますから、見比べてみるのも興味深いでしょう。

プロフィール

中本千晶
フリージャーナリスト。67年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。00年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。
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