インタビュー
2010年1月7日
ミュージカル、ストレートプレイの舞台で主演や主要キャストを次々と演じてきた浦井健治。昨年秋、総上演時間9時間のシェイクスピア歴史劇「ヘンリー六世」三部作ではタイトルロールを演じ好評を博した。2010年初めの舞台では「蜘蛛女のキス」再演に挑む。2年の歳月を経て、新たにどんなヴァレンティンが生まれるのか。稽古半ばの先月末に稽古場を訪ね、新しい「蜘蛛女のキス」に挑む思いや自身の役者としての生き方などについて聞いた。
「蜘蛛女のキス」の原作はラテンアメリカを代表する作家マヌエル・プイグのカルト的ベストセラー小説。プイグ自身の手で戯曲化、映画化を経て後にミュージカル化された。音楽は「シカゴ」「キャバレー」の作曲・作詞家ジョン・カンダー&フレッド・エッブ。トニー賞を受賞している。日本では2007年に荻田浩一による新演出で上演され、今回の再演ではオリジナルキャストの石井一孝(モリーナ)、浦井健治(ヴァレンティン)らに、蜘蛛女に金志賢、ダンサー辻本知彦らが加わる。金は「キャッツ」でグリザベラを700回にわたり演じ、辻本はシルク・ドゥ・ソレイユに日本人初参加したダンサー。新たな才能が加わった新・蜘蛛女のキスに注目が集まる。
2009年12月29日に行われた公開稽古では冒頭から40分近くが公開された。石井も浦井も舞台の役を思わせる衣装を着ていた。心の奥に触れるような音楽が流れ出し、金の歌声が静かに聞こえて来る。まだ金は本来の一割程度の歌声ではないだろうか。それでも蜘蛛女の世界に引き込むには十分な歌声。看守に暴行を受け意識朦朧とした若き政治犯ヴァレンティンが監房に運び込まれてきた。モリーナは、怯えながらも近づいて行く。映画を愛するゲイのモリーナは、耐えられない現実から逃避すべく、心の支えである憧れの映画スター「オーロラ」に話しかけ、物語は始まって行く。浦井のヴァレンティンは革命家の熱い心を内に抱き、初演より一段とエネルギーに溢れていた。以前に比べ声が低く、歌は声の幅が広がってさらに感情をのせていた。価値観の違うモリーナとは激しくぶつかり合う。幻の中に恋人マルタ(朝澄けい)を見つけ、すがるような切ないやりきれない表情で見つめる。
浦井は初演の頃には気づかなかったものを今は感じるという。「2人の関係をより痛々しく感じたり…。初演の頃はただ怒っていた部分の中にやりきれなさが見える時もあると荻田先生に言われました」。作品については「色んなメッセージが詰まった作品」といい、今の状況を「演じる側としてはとても難しい部分が多く、悩みもがき苦しんでいます」と語る。そして初演の自分自身に勝てるように戦いたいと話す。
さらに自分にはない感情を演じる事により、自分自身の新しい面を発見できるのが魅力だという。「例えばいい意味で『怒り』の中にももう少し繊細な色んな感情を詰め込む事ができるのかな」とヴァレンティンを演じるうちに気づいた。そして演じる役の事を感じながら生活ができるのが役者の醍醐味の一つと話す。
2000年に「仮面ライダークウガ」でデビュー。その後舞台へも活動の場を広げ、2004年東宝ミュージカル「エリザベート」のルドルフ皇太子役に抜擢。以降数々の舞台に出演。2006年のミュージカル「アルジャーノンに花束を」チャーリー・ゴードン役、ミュージカル「マイ・フェア・レデイ」フレディ役に対し、第31回菊田一夫演劇賞を受賞。昨年12月、「ヘンリー六世」での演技に対し、第44回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した。役者10周年となる2010年。浦井は「変わらずチャレンジし続けて走り続けていきたい。一つ一つの作品をカンパニーの仲間と楽しく作り、常に作品の一部であり続けたい」とまっすぐに前を見つめて話した。
今回のインタビュー全文を「スター★ファイル」コーナーに「新たな『蜘蛛女のキス』へ 浦井健治ロングインタビュー」として掲載しました。スター★ファイルを読むにはアサヒ・コム プレミアム・ベーシックパック(月額525円)の購読が必要です。
◆The Musical「蜘蛛女のキス」
《大阪公演》2010年1月16日(土)〜1月18日(月)、梅田芸術劇場メインホール
《東京公演》2010年1月24日(日)〜2月7日(日)、東京芸術劇場 中ホール
出演:石井一孝・金 志賢・浦井健治ほか
演出・訳詞:荻田浩一
⇒詳しくは、梅田芸術劇場の公演案内へ
(関連リンク:浦井健治公式プロフィールページ)