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ステージレビュー

小粋なラブロマンス「絹の靴下」、コミカルに蘇る

2010年5月19日

  • 文・中本千晶

写真ミュージカル「SILK STOCKINGS 〜絹の靴下〜」より=撮影・村尾昌美

写真拡大ミュージカル「SILK STOCKINGS 〜絹の靴下〜」より=撮影・村尾昌美

写真拡大ミュージカル「SILK STOCKINGS 〜絹の靴下〜」より=撮影・村尾昌美

 5月16日、青山劇場にて初日の幕を開けたミュージカル「絹の靴下」(30日まで。6月4日〜6日、大阪シアター・ドラマシティ)。長い間眠っていた宝物のようなミュージカルが、元・宝塚歌劇団の奇才演出家、荻田浩一氏の手によって見事に蘇った。

 花の都パリを舞台に、ソ連からやって来た「鉄の女」ニノチカが、アメリカ人プロデューサー、スティーヴとの出会いを機に、自由に生きる楽しさ、女性としての喜びを見出していく。1955年にブロードウェイで初演、のちに映画でも大ヒットした。コール・ポーターの名曲に彩られた小粋なラブロマンスだ。

 映画版でフレッド・アステアとシド・チャリースが演じたカップルに、このたびは「THE CONVOY SHOW」を主宰してきた今村ねずみと元・宝塚トップスターの湖月わたるが挑戦する。

 ニノチカ役を演じる湖月わたる。パリからちっとも帰国しようとしない音楽家を連れ戻すべく派遣された筋金入りの共産党員だ。だが、登場シーンからすでに、あふれ出る好奇心と女性らしいチャーミングさが、かっちりと身を包んだグレーのスーツから垣間見える。

 その魅力に即座に気づくスティーブ、さすがに目が高い大人の男だ。アステアのイメージがあまりに強いため、「最初は意識せざるを得なかったが、稽古を重ねるうちに、自分という素材を生かして演じればいいと思うようになった」という今村。ただでさえ「鉄の女」を口説き落とす難役で、おまけに今回は湖月のほうが背が高い「ノミのカップル」。だが、あくまで自然体でニノチカをさりげなく受け止めていく姿に、今村らしい包容力を感じさせた。

 1幕ラスト、ニノチカがグレーのスーツをついに脱ぎ捨て、「絹の靴下」を身に着けるシーンは、本作の大きな見どころ。湖月がそのダイナミックな肢体を生かして、女性として生まれた喜びを伸びやかに表現する。この場面、「まるで何かがパラパラと取れていくような感じ」と湖月。観客の側も、ニノチカと共に、普段がっちり身にまとっている鎧を脱ぎ捨てていくような快感に襲われる。「もっと肉食系で、欲張りに人生楽しまなくては!」と。

 ニノチカとは対照的な存在の、ハリウッド女優ジャニスを演じるのが樹里咲穂。お色気だけが武器で、頭は少々ヨワそう。ともすれば「女の敵」になりがちな役どころだが、不思議と嫌味なく可愛らしい。いわば、ニノチカが変わっていく後押しをするのがジャニスの役割で、華やかな歌と踊りの見せ場もたっぷりある。

 ソ連の音楽家ボロフの渡部豪太は、いかにも頼りなさそうだけど「実は天才」という存在感。パリに来ていきなり骨抜きになるソ連のおとぼけ3人組、イワノフ・ビピンスキー・ブランコフ(戸井勝海・伊礼彼方・神田恭兵)が要所要所で笑いを誘う。脇役陣では、食えないニノチカの上司の小宮健吾、ホテルマンのひのあらたが目を引いた。

 1幕でニノチカがあっという間に変貌してしまうので、この先続くのかと心配になるのだが、2幕では、さらなる展開がちゃんと待っているからご安心を。

 「自由に生きること、表現することの素晴らしさ、そして、その権利は誰もが持っていること」を知ってしまったがゆえのニノチカの選択は? 最後は、敏腕プロデューサーならではのスティーブのしたたかさと、かつて優秀な共産党員だったニノチカの情報収集力(?)が見事に発揮され、アメリカン・ミュージカルらしい締めくくりとなる。

 そして、本作もうひとつのお楽しみはフィナーレ。宝塚時代は、ともに男役スターとしてならした湖月、樹里の2人がマニッシュなパンツスーツ姿で登場。カッコいいダンスに見とれていたら、いきなりパンツ引き抜きで、ダルマ(手足の出た水着のような形の衣装)姿に早替わり! 脚線美対決となる。女性から男役への早替わりは宝塚のショーでよくあるが、逆パターンは宝塚を卒業した2人ならではだ。

 初日は3回のカーテンコール。スタンディングオペレーションで盛り上がった。今村に恭しくリードされ、ちょっぴり威張った感じで登場する湖月、コミカルなラブラブぶりに客席がさらに沸いた。最後の最後まで見逃せない、楽しみの尽きない舞台だった。

◆ミュージカル「SILK STOCKINGS 〜絹の靴下〜」

《東京公演》2010年5月16日(日)〜5月30日(日)、青山劇場
《大阪公演》2010年6月4日(金)〜6月6日(日)、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
詳しくは梅田芸術劇場の公演案内へ

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「絹の靴下」製作発表の詳細を掲載

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