ステージレビュー
2010年7月31日
花組公演ミュージカル「麗しのサブリナ」が、7月30日、宝塚大劇場で初日を迎えました。トップスター真飛聖(まとぶ・せい)さんの相手役として、蘭乃はな(らんの・はな)さんが就任し、この公演が新トップコンビのお披露目となります。「麗しのサブリナ」は、大女優オードリー・ヘップバーンと名優ハンフリー・ボガードが主演した映画史に残る名作の一つで、観たことがない方でも、その題名は耳にしたことがあるはず。ファッション界ではおなじみのサブリナパンツも、この映画から誕生しました。トップスターとして円熟味を増してきた真飛さんが、就任1作目でタイトルロールを演じることとなった蘭乃さんをどう迎えるのか、新しい花組が楽しみな作品となりそうです。
ニューヨーク郊外にある大富豪ララビー家には、2人の息子がいた。仕事一筋で堅物の長男ライナス(真飛)と、遊び人のプレイボーイ・デイヴィッド(壮一帆/そう・かずほ)だ。ララビー家お抱え運転手の娘サブリナ(蘭乃)は、幼い頃から次男のデイヴィッドに憧れていたが、振り向いてはもらえず、パーティーで女性たちと華やかに恋を楽しむ彼を遠くから眺めるだけ…。父は身分違いの恋をあきらめさせるため、娘にパリ留学させることを決めたが、失恋に胸を痛めるサブリナは自殺を企ててしまう。だが危険なところを偶然ライナスに助けられ、結局、パリへ旅立つこととなった。
真飛さん演じるライナスは真面目な仕事人間、パリっとスーツやタキシードを着こなす正統派二枚目です。かたや結婚を3回も繰り返すプレイボーイのデイヴィッドは、明るい色のジャケットがよく似合う陽気な男で、壮さんが軽妙に演じます。対照的な兄弟役は、トップと2番手のカラーを上手く活かしていて、2人の息もぴったり。そしてサブリナを演じる蘭乃さんは、実にキュートでした。清楚な日本人形風の顔立ちですが、メイクでパッと洋風の華やかな感じになるところが宝塚の娘役らしく、初々しさがサブリナ役にも溶け込み、フレッシュさが舞台全体を覆います。そんな彼女を包み込む真飛さんの大人の男指数も、おかげでますます増強して見え、これはいいコンビになりそうな予感。また、今回は愛音羽麗(あいね・はれい)さんがストーリーテラーとして、物語のあらゆるところに登場します。タキシード紳士やシェフ、医者などの多彩な扮装もお見逃しなく!
サブリナはパリの料理学校で、授業のみならず、そこで出会った男爵にアドバイスをもらい、たくさんの事柄を学んでいた。そして2年後。すっかりレディに変身し、再びララビー家に戻ったサブリナに、デイヴィッドは一瞬で心を奪われてしまう。政略結婚間近にもかかわらず、サブリナと結婚したいと訴え、両親は大激怒。決意の固いデイヴィッドだったが、お尻に入れたシャンパングラスが割れて大けがを負い、しばらくはライナスがサブリナの相手をすることになった。忙しい仕事の合間をぬい、サブリナを頻繁にデートへ誘うライナス。そこにはララビー家の事業のため、弟と彼女の仲を裂こうとする企みがあった。だがいつしかライナスの心は、思わぬ方向へと揺れ始め…。
最初はあかぬけない娘だったサブリナが、パリから戻った時にはすっかり都会的な大人の女性に変身していました。髪形もポニーテールからショートカットへ。モダンで意思が強そうに見えますが、意外にも女性らしいドレスに映えます。これであっという間に惚れてしまうデイヴィッドもつくづく調子のいい男なのですが、なぜか憎めないのが良いところ。一方、ライナスは部下への指示も詳細な数字で表し、仕事だけに生きる男を体現していますが、紺ストライプのスリーピースにエンジのネクタイとポケットチーフなど、一分の隙もないスーツ姿にイイ男っぷりが隠せません。サブリナとのデートシーンには、なんと本物の車が舞台に登場しますが、片手でスイスイとハンドルを操作する姿もイカス!
そんな3人が、いつの間にか恋のトライアングルを織り成していました。ひたすらサブリナと結ばれることを楽しみに待つデイヴィッドをよそに、事業成功のためサブリナの心をあやつるはずのライナスが…、デイヴィッドを一筋に愛してきたはずのサブリナが…、互いの素顔に触れ、気持ちが揺れ動いていく。2人で歌う「ラ・ヴィアン・ローズ」は胸に沁み入ります。ちょっと懐かしい時代の正統派ラブロマンスは、宝塚の基本かもしれません。安心して楽しめる作品で、新しいトップコンビのステキな船出となりそうですね。
ショーは「EXCITER!!」で、これは2009年に花組で上演したものを、さらに進化させたもの。記憶に新しい演目が、同じ組の再演でどう魅せてくれるのか、ファンにとっては楽しみも2倍となりそうです。前作で大好評だったのはお墨付きですから、初めて観る方ももちろん十分期待してください。
オープニングはエリマキトカゲ風衣装の真飛さんを中心に、白をイメージした男女のダンスが優雅に繰り広げられたと思いきや、真飛さんが後ろを向くと一転、赤と黒を基調にしたエネルギッシュな場面へ。「バチバチバチ ショートする熱視線で ガチガチガチ 話さないもう二度と」テーマソングも前回と同じくノリのいいメロディーで、すぐに舞台と客席が一体化します。この主題歌がすぐに覚えられて、帰り道に口ずさめるのは、宝塚における「お土産」みたいなものでしょうか。全身ピンクに装った夏美よう(なつみ・よう)さんの天才デザイナーのシーンでは、白を基調にしたさまざまなデザインの衣装を身にまとった男女が登場します。特に娘役が、貴婦人あり、お姫様あり、少女あり、セクシーありで、いろんな芝居をダイジェストで見ているような贅沢気分になれそう。その後に続く、Mr.YUの場面も目玉です。イケてないサラリーマン演じる真飛さんが、壮さんの発明した「チェンジBOX」で超イケメンに大変身! 今回は社員旅行でハワイへ行く設定になっていて、真飛さんのとぼけた演技が相変わらず面白く、かつ変身後のギャップが痛快でした。黒タキシード群舞もあって、男役のみなさんが競うように独自にキザるという、花組の醍醐味もたっぷり味わえます。また、この公演の後、未涼亜希(みすず・あき)さんが、雪組に異動します。未涼さんの哀愁ある歌声が花組で聞けるのはこれで最後、こちらもしっかりと堪能させてもらいました。2010年度版「EXCITER!!」で花組は、暑い夏でもさらに熱く燃えています。
◆「麗しのサブリナ」/ショー「EXCITER!!」
《宝塚大劇場公演》7月30日(金)〜8月30日(月)
⇒詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《東京宝塚劇場公演》9月17日(金)〜10月17日(日)
⇒詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
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