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ステージレビュー

軽いノリの喜歌劇をコミカルに、「ジプシー男爵」開幕

2010年9月4日

  • 文・さかせがわ猫丸 写真・岸隆子

写真宝塚大劇場公演「ジプシー男爵」より=撮影・岸隆子

写真拡大宝塚大劇場公演「ジプシー男爵」より=撮影・岸隆子

写真拡大宝塚大劇場公演「ラプソディック・ムーン」より=撮影・岸隆子

 宝塚月組公演「ジプシー男爵」が、9月3日、宝塚大劇場で初日を迎えました。ヨハン・シュトラウス2世作曲のオペレッタ(喜歌劇)をミュージカル化した作品で、霧矢大夢(きりや・ひろむ)さんと蒼乃夕妃(あおの・ゆき)さんのトップコンビで、大劇場2作目となります。

 霧矢さんといえば、歌の上手な人という印象がありますが、ダンスの名手でもあります。緩急自在な安定感と、どの角度でもピタリとポーズが決まる美しさは、筋肉の強さを象徴し、「これぞダンサー」と唸らずにはいられません。今回はまさにその霧矢さんの‘歌’と‘ダンス’がふんだんに楽しめる公演となりました。

 「ジプシー男爵」という題名から、赤や黒をイメージした情熱的なシーンから始まると思いきや、プロローグでは、モノトーンの衣装に身を包んだ霧矢さんと蒼乃さんがシンプルな舞台上で斜めに向かい合って登場。スポットが当たる2人にバイオリンの旋律が響き渡り、ドラマチックな幕開けです。タンゴなど次々と曲調が変化し、2人きりのクールでダイナミックなダンスが連続します。蒼乃さんのスカートさばきも美しく、長い脚が時々のぞくのがまたセクシー。冒頭から強烈なインパクトのショーで突入するとは、意表を突かれました。

 物語の舞台は、18世紀のハンガリー・テメシュバール。この街には、かつてトルコ総督が隠したという財宝の噂があった。豚飼い商人のジュパン(汝鳥伶/なとり・れい)は、使用人オトカ―(明日海りお/あすみ・りお)を使って必死で宝探しをするが、見つかる気配はない。そこへ、無実の罪で亡命した大地主の息子シュテルク(霧矢)が、帰ってくることになった。幼い頃に両親を亡くしたシュテルクは、世界中を放浪し気ままに生きてきたが、政府の役人カルネロ(越乃リュウ/こしの・りゅう)によって見つけ出され、父の領地を継承するよう促されたのだ。

 ジュパンはカルネロから、シュテルクの領地所有権を証明するよう求められるが、土地を勝手に自分のものにしていたため、書類へのサインを渋る。悪知恵を働かせたジュパンは、3人の娘のうち誰かとシュテルクを結婚させればいいと思いついた。密かに恋人同士だった三女アルゼナ(彩星りおん/あやほし・りおん)とオトカ―は仰天・困惑してしまう。

 誰にも縛られず生きてきたシュテルクは、女王マリア・テレジア(花瀬みずか)への謁見でも臆するところはありません。どんな風に自由に生きてきたかは、霧矢さんの歌とダンスで表現され、シュテルクの魅力をアピールします。テメシュバールの街を仕切る豚飼い商人のジュパンは欲深い男ですが、いつも小さな豚を抱いていて、なんだか憎めないキャラクターを、専科の汝鳥さんが好演しています。何かアイデアを思いつくと、「ブヒッ」という豚の鳴き声が聞こえたり、家の窓や置物が豚の形をしているのもユニークな演出です。財宝発掘にこき使われるオトカ―はちょっぴり情けない男で、キュートな明日海さんがアタフタと走り回ると、ますます可愛らしく見えてきました。

 「3人の娘のうち1人と結婚を」というジュパンの勝手な提案もどこ吹く風のシュテルクの耳に、郷愁を誘う歌声が聞こえてきた。導かれるようにたどり着いた城跡で、シュテルクはジプシーの娘ザッフィ(蒼乃)と出会う。そこへ突然、たくさんのジプシーたちが集まってきた。占い師ツィプラ(美鳳あや/みほう・あや)によると、世間から迫害されていた彼らを、シュテルクの亡き父がこの領地に住まわせていたのだという。ザッフィの歌声に懐かしさを感じた理由を悟ったシュテルクは、父の遺志を継ぐことを決意。ジプシーたちは彼を「ジプシー男爵」と呼び、永遠の忠誠を誓った。ジプシーの青年の1人、パリ(龍真咲/りゅう・まさき)だけを除いて…。

 シュテルクと恋に落ちるジプシーの娘で、実は…というザッフィを演じる蒼乃さんは、堂々としたトップ娘役に成長してきました。ザッフィが内に秘めた熱さと孤独をうまく表現しています。伸びやかなダンスは霧矢さんとも相性が良く、ますますお似合いのコンビへと発展していきそう。龍さん演じるパリは、親をハンガリー人に殺された過去を持つ、屈折した男です。龍さんはこういった影のある、ヤサグレ男が似合いますよね。お芝居の後半では、彼の変化に思わず感動してしまいますので、なかなか美味しい役でもありました。

 今回はヨハン・シュトラウス2世の音楽も注目どころで、迫力あるオーケストラとともに、特に大合唱シーンが圧巻です。男役のみなさんも、ジプシーや村の人々といったスタイルだけでなく、最後には軍服姿でも登場しますので、こちらもお楽しみに! 物語は宝塚らしい愛と正義に満ちていて、とにかく明るくハッピーな気分になれますよ。

 ショー「Rhapsodic Moon」(ラプソディック・ムーン)も、さらに輪をかけて明るく元気。みんなひたすら踊り続けていて、しかもたたみかけるように群舞で登場するので、大迫力の連続です。大人数が織り成すフォーメーションの美しさは、2階から観るとさらに楽しめるかもしれません。スピード感があって、観ている方はワクワクしますが、舞台の上のみなさんは大汗かいて大変かも…?
 
 黒燕尾のシーンは少しレトロなムードが洒落ています。フィナーレにおける霧矢さんと蒼乃さんのデュエットダンスのシーンで、男役の沢希理寿(さわき・りず)さんと輝城みつる(きじょう・みつる)さんの2人がトップペア2人の後方に並んで歌うという珍しいシーンもありました。

 かつてない厳しい暑さも一段落していくであろうこれから、軽いノリの喜歌劇をもとにしたコミカルな芝居と、美しい歌声、華麗なダンスを、ゆったりと楽しんでみてはいかがでしょうか。

◆「ジプシー男爵」

《宝塚大劇場公演》2010年9月3日(金)〜2010年10月4日(月)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《東京宝塚劇場公演》2010年10月22日(金)〜2010年11月21日(日)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ

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筆者プロフィール

さかせがわ猫丸
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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