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ステージレビュー

杏さん、初舞台・初ミュージカルの「ファントム」で熱唱

2010年11月3日

  • 文・橋本正人

写真:ミュージカル「ファントム」より=撮影:miow hirota拡大ミュージカル「ファントム」より=撮影:miow hirota

写真:ミュージカル「ファントム」より=撮影:miow hirota拡大ミュージカル「ファントム」より=撮影:miow hirota

写真:ミュージカル「ファントム」より=撮影:miow hirota拡大ミュージカル「ファントム」より=撮影:miow hirota

 「大沢ファントム最終章」と銘打たれたミュージカル「ファントム」が2日、東京の赤坂ACTシアターで始まった。「自分にとって最後のミュージカルになるつもりで挑む」というファントム役の大沢たかおの思いと、今回が初舞台・初ミュージカルとなるクリスティーン役の杏がどうコラボするのか。注目の舞台の幕が開いた。

 パリコレなどで世界的に活躍しているモデルで、ここ数年はテレビなどでの女優としての活動が増えている杏。幕あきとほぼ同時に舞台に登場した彼女を見て、思わず、うなった。「顔、ちっちゃ!」。すらりとした長身に、くっきりした顔立ちの小さな頭。貧しい楽譜売り娘の衣装を着ていても、伸ばした背筋に気品が漂う。そして、その杏がさっそく歌い始めた…。

 美しい声。優しい声だ。音程もしっかりしている。だが「これを聞けたら死んでもいい」とまで思われる歌声ではない。しかし、考えてみれば、この時点で杏が演じているのは「声の綺麗な楽譜売りの少女」であって、オペラ座のファントム(怪人)によって歌のレッスンを受ける前の少女だ。舞台が進むにつれて、クリスティーンはファントムの猛レッスンを受け、歌唱力が磨かれてゆく。そして、ファントムがついに言う「もう教えることは何もない。外に出て歌え」と。クリスティーンはドレスを着て、コンテストに出て歌うことになる。ファントムに太鼓判を押された歌声を、杏は出すことができるのか…。

 コンテストの場面。クリスティーンの歌は、小さな声、おどおどした声で始まる。舞台上の観客たちは失笑する。その時、ファントムが舞台前のオーケストラボックスに現れ、曲の途中から指揮を始めた。曲調が変わり、クリスティーンの声が変わっていく。綺麗だが頼りなかった杏の声が微妙に変化を始める。そして、堂々と力強く、高らかに歌いあげる。「メロディ メロディ 歌おうメロディアスに 自由で 優しく 空にこだまする 風にささやく メロディ」。

 1910年に発表された小説「オペラ座の怪人」は、何度も舞台・映画化され、ミュージカルは、アンドリュー・ロイド・ウェバーの「オペラ座の怪人」と、モーリー・イェストンの「ファントム」の2種類に大別される。ポップで派手なロイド・ウェバー版の「オペラ座の怪人」は、クリスティーン役のサラ・ブライトマンの華麗な歌声とともに大ヒットした。モーリー版の「ファントム」は、どちらかというと地味だが、人間の心の内面を深く描いている。杏の透き通るような優しい歌声は、ケレンミたっぷりのロイド・ウェバー版には似合わないかもしれないが、心の繊細なひだを描いた「ファントム」には似合っている。特に、舞台後半、クリスティーンがファントムに向かって歌う「My True Love」は心に染み込んできた。

 登場人物に聖人君子はいない。誰もが闇の部分と光の部分を抱え、希望を抱き、過ちをおかし、苦しみ、救いを求める。美と醜、芸術と金、嫉妬と復讐が交錯する。劇場経営者のショレー(石橋祐)のセリフ「芸術は上等なやつらだけのものなのか」、元劇場支配人のキャリエール(篠井英介)のセリフ「無責任な優しさは残酷なものです」が深く響く。そしてファントムがクリスティーンにひかれたのは、彼女の声の美しさゆえではなく、彼女の声の向こうにあるものが原因だった。

 フランスのオペラ座で起きた遠い時代の物語としてではなく、現代の「引きこもり」などについても考えさせられる深い内容となっている。ワイヤーを使ったフライングなど、観客をひきつける仕掛けも健在だ。

 大沢の歌声は、太く力強く響きわたる。前回の「ファントム」が初ミュージカルとはとても思えない。もちろん、定評ある演技力が、舞台全般をどっしりと支えている。これが「最後のミュージカル」と周囲は認めたがらないだろう。「大沢ファントム最終章」と「杏ミュージカル第1章」の出会い。前売り券のソールドアウトが、うなずけた。(舞台評は初日前日に行われた通し稽古を観てのものです)

■大沢たかおさんのコメント

 再演となりますが、初演の作品に挑む感じで、一から作り上げてきました。たくさんのスタッフ、出演者と作品を作り上げていくことをとても嬉しく思っています。これが最後のミュージカルになるかどうかはわかりませんが、最後になってもイイという気持ちで臨んでいます。(クリスティーン役の杏さんについて)声が綺麗で人柄もとても素晴らしい人。杏さんや稽古場のみんなからエネルギーをもらいました。毎公演ベストを尽くします。ご期待下さい。

■杏さんのコメント

 無事に初日を迎えることが出来ました。初舞台初ミュージカルということですが、実はあまり緊張していません。というのも本当に素晴らしい方々に囲まれ、恵まれた環境の中で、今日までお稽古できてきたので、その成果を出し切るばかりと思っています。素晴らしい音楽、脚本、演出の中で、精一杯今の自分が出せる全てを出して千秋楽まで駆け抜けたいと思います。今回、大沢さんとご一緒させて頂き、幸せだなと思っています。ひとつひとつの役柄がキャラクターとしてではなく、血の通った人間として、舞台上で存在するということを感じさせて頂きました。大沢さんのファントムに舞台上で並べるようなクリスティーンになれるよう頑張りたいと思います。

◆ミュージカル「ファントム」 ガストン・ルルー原作「オペラ座の怪人」より

《東京公演》2010年11月2日(火)〜11月22日(月)、赤坂ACTシアター
《大阪公演》2010年11月28日(日)〜12月9日(木)、梅田芸術劇場メインホール
詳しくは公式ウェブサイトへ

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