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ステージレビュー

安蘭と別所と大和田、ワンダフルにエネルギー全開

2010年11月20日

  • 文・さかせがわ猫丸
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写真:ブロードウェイ・ミュージカル「ワンダフルタウン」より=(C)薈田純一拡大ブロードウェイ・ミュージカル「ワンダフルタウン」より=(C)薈田純一

写真:ブロードウェイ・ミュージカル「ワンダフルタウン」より=(C)薈田純一拡大ブロードウェイ・ミュージカル「ワンダフルタウン」より=(C)薈田純一

写真:ブロードウェイ・ミュージカル「ワンダフルタウン」より=(C)薈田純一
拡大ブロードウェイ・ミュージカル「ワンダフルタウン」より=(C)薈田純一

 宝塚歌劇団元トップスターで女優の安蘭けいが主演する「ワンダフルタウン」が、大阪で初日の幕を上げました(11月18日〜24日 大阪・梅田芸術劇場)。

 この作品の目玉はなんといっても、レナード・バーンスタインが手がけた音楽。クラシックの巨匠がミュージカル? と意外に思われそうですが、あの有名な「ウエスト・サイド・ストーリー」も彼の作品です。この「ワンダフルタウン」も、数々のトニー賞を受賞した名作ながら、日本ではまだ上演されていませんでした。それだけに注目度も高く、安蘭さんにとっては退団後、初のブロードウェイ・ミュージカルとなるだけに、期待せずにはいられません。

 物語の舞台は、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジ。芸術家を夢見る個性的な人々がひしめきあうこの街に、オハイオの田舎からルース(安蘭けい)とその妹アイリーン(大和田美帆)が、それぞれの夢を抱いてやってきた。女優志望のアイリーンは絶えず男性に言い寄られるが、作家志望のルースはその正反対で恋も縁遠く頑固もの、だけどいつも前向きに生きてきた。

 2人が住むことになったアパートにいたのは、アメフト選手のレック(宮川浩)とその恋人で女優の卵ヘレン(星奈優里)、大家のアポポラス(花王おさむ)、ジャズクラブのオーナーのヴァレンティ(青山航士)など、おかしな人たちばかり。それでも2人は目が回るような大都会ニューヨークで翻弄されながら、なんとかチャンスをつかもうと奮闘していた。そんな中、ルースはようやく出版社に原稿を持ち込むが、副編集長のベイカー(別所哲也)に「ニューヨークは甘くない」と追い返されてしまう。

 一方、アイリーンはボーイフレンドを次々つくり、スーパーの店長フランク(矢崎広)や新聞記者チック(照井裕隆)を夕食に招き、姉に紹介したいと言いだした。だが彼らを迎える前に、ルースを訪ねてきたベイカーに一目ぼれし、彼も強引に夕食へと誘ってしまうのだった――。

 安蘭さんと大和田さんは対照的な姉妹ながら、どちらもとても魅力的。大和田さんは、ルックスもよく、高く澄んだ声が美しい。アイリーンは無意識に男性を翻弄する役ですが、まったく嫌味がなくて、女性でもメロメロになってしまいそうな納得のキュートさです。そうすると頑固で堅物なルースの安蘭さんは気の毒な役柄になりそうですが、その融通のきかなさが逆に可愛らしくて、いとおしくなるから不思議。安蘭さんはコメディが初めてということですが、なんのなんの。関西出身の血がそうさせるのか、間の取り方が絶妙で、ぼそっと言い放つ何気ないセリフだけで客席を沸かせています。また、2人がデュエットする「オハイオ」のハーモニーは絶品で、声の相性が合うと、これほど耳に心地いいのかと感動してしまいました。

 アパートの住人たちのユニークさも見逃せません。青山さん演じるヴァレンティはジャズクラブのオーナーという役どころと併せ、物語を通してキレのいいダンスで「踊るストーリーテラー」のような役割も果たしています。このあたりの洒落(しゃれ)た登場は、演出家の荻田浩一先生らしい腕の見せどころ。レックがセリフを言うごとに繰り出すマッチョなポーズとそれに伴う笑顔は、この作品の中でも1、2を争う印象的なものの一つです。レックの恋人ヘレンは、けなげで可愛い。アポポラスも、曲者のようでどこか憎めない。フランクは空気が読めなくて、ちょっと可哀想。チックは軽薄で憎たらしい。などなど、どの人物も明るく個性的なのが、物語の楽しさを一層盛り上げています。

 別所さんはさすがの声量と圧倒的存在感で、優しく心の広い、でも少し不器用な副編集長を演じています。別所さんと安蘭さんは最後に結ばれる仲となるわけですが、ベイカーがルースにひざまずき、手に口づけをするのが一番のみどころ。初日のスペシャルカーテンコールで別所さんは、この時、安蘭さんの目に涙がぱーっと広がるのにドキッとすると語っていました。ベイカーの大きな愛でルースが包み込まれるようなこのシーンは、全編陽気に展開する中で唯一、切なく胸を打つ印象的なシーンとなっています。

 そしてこの作品の目玉である音楽は、まさに期待を裏切らないものでした。今回、オーケストラは舞台上にあり、バスサックスという珍しい楽器や、舞台から見えないところにはトロンボーン、オーボエ、ビオラ、チェロ、ベース、ドラムなどがあり、総勢21名からなる生の演奏も存分に楽しめます。

 話は決して難しくなく、よくあるアメリカ的サクセススト―リーなのですが、ところどころに入るショーシーンが、そんなシンプルな物語を生き生きと輝かせるのです。ルースが自分を模した「男に嫌われる為の100の方法」は、安蘭さんの歌唱力のみならず表現力を最大限に活かすナンバーで、彼女を知らなかったミュージカルファンをもうならせたのではないでしょうか。1幕を締める陽気な「コンガ」は、幕間にずっと頭に流れ続けますし、2幕はじめの「マイダーリン アイリーン」は、大和田さんの可愛らしさと警官たちのアカペラに感嘆。そして安蘭さん最大の見せ場「スウィング」では、サンドイッチマンのスタイルから突如、黒いラメのセクシードレスでジャズシンガーに変身した瞬間、客席から「おお〜」とどよめきが起こったほどでした。そしてクライマックスは、「調子はずれのラグタイム」。ルースとアイリーンの姉妹が魅せるイカしたデュエットで、物語は最高にハッピーに! ほかにも素晴らしい曲がたくさんあります。

 ミュージカル作品を観て、たった1回でこれほどいくつものナンバーが印象に残るのは、さすが巨匠バーンスタイン。そしてなにより、安蘭さんはじめキャストのみなさんのパワーとエネルギーが弾けていたからだと思います。明るく陽気に、前向きに―そんなメッセージと元気をもらった舞台でした。東京、名古屋からここ大阪へ。公演期間は残すところあとわずかですが、寒くなる季節とは正反対に、劇場はますます熱くなるに違いありません。

◆ブロードウェイ・ミュージカル ワンダフルタウン

《大阪公演》2010年11月18日(木)〜24日(水)、梅田芸術劇場 メインホール
詳しくは公式ウェブサイト

スター★ファイル

安蘭けいさんインタビュー全文掲載

 安蘭けいさんのインタビュー全文を「スター★ファイル」コーナーに「『ワンダフルタウン』日本初上演 安蘭けいインタビュー全文」として掲載しています。スター★ファイルの記事本文を読むにはAstand・ベーシックパック(月額525円)の購読が必要です。ベーシックパックの購読は、こちらから。

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 (関連リンク:安蘭けい公式ファンクラブ Aran HP

筆者プロフィール

さかせがわ猫丸
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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