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ステージレビュー

「モーツァルト!」初主演・山崎育三郎「夢がかなって幸せ」

2011年1月20日

  • 文:堀内優美
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写真:ミュージカル「モーツァルト!」の舞台より=東宝演劇部拡大ミュージカル「モーツァルト!」の舞台より=東宝演劇部

写真:ミュージカル「モーツァルト!」の舞台より=東宝演劇部拡大ミュージカル「モーツァルト!」の舞台より=東宝演劇部

 作曲家・モーツァルトの生涯を描いたミュージカル「モーツァルト!」が梅田芸術劇場で上演されている。初演は1999年のウィーン、2001年にはドイツ・ハンブルク、2002年には日本で小池修一郎の演出のもと、精巧に練られた日本版として上演。日本で4度目となる今回の公演は、主役のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト役に4公演続投の井上芳雄に並び、山崎育三郎がダブル・キャストでタイトル・ロールを飾った。公演前のアサヒ・コムのインタビューでは「僕の夢の叶う瞬間を是非、観に来ていただきたい」と熱く語ってくれたが、果たしてその夢の叶う瞬間はどうだったのか…?

 モーツァルトは子供の頃から英才教育を受け、彼は「神童」の名を欲しいままにするが、領主の大司教に逆らったために活動の場を奪われ、父親とも対立。自身を追い詰め、短い生涯を終えてしまう。物語には、現実の世界に翻弄される「ヴォルフガング」と、幼少時代の才能の象徴「アマデ」という、2人の「モーツァルト」が登場する。アマデはヴォルフガングには見えるが他の人には見えない。幼少時代の才能が重くのしかかって離れないという、ヴォルフガングの葛藤がアマデの存在により強調される。

 2002年初演の「モーツァルト!」を観て、ヴォルフガングをやりたいと強く思ったという山崎。当時は高校生で、まさに8年ごしの夢が実現。「あれから8年。信じて思い続けていれば夢はかなうと思ってきました。つらいこと、不安、いろいろあったけど、初日にカーテンコールで拍手をいただいて、本当に幸せでした」と振り返る。

 高校時代、変声期で歌えなくなった苦悩のなかで、舞台のヴォルフガングとアマデの葛藤が、自身と重なって感じたと話していた山崎。実際の舞台では、アマデに頼り、アマデを賛美し、アマデに支配されてゆくヴォルフガングを、等身大の若者として演じてゆく。

 そして最後のシーン。「レクイエム」の作曲を求められたヴォルフガングは、はじめて、アマデに頼らず、自分で作曲しようとする。曲が作れずに苦しむヴォルフガングに近づくアマデ。アマデは、愛用の白い羽根ペンをヴォルフガングに渡す。アマデから羽根ペンを受け取ったヴォルフガングは、「僕こそ音楽(ミュージック)」を歌いはじめる。舞台中で何度も歌われ、「ミュージックだけが生きがい」と語るこの曲を、このシーンでは、山崎は幸福感を漂わせる優しい響きの歌声で歌いはじめる。歌詞の内容は他のシーンと変わらない。しかし、その歌声からは、それ以外のシーンでの歌とは違う柔らかな満足感ともいえる雰囲気が伝わってくる。いったいこれは何なのか。

 公演終了後に山崎に直接話を聞く機会があり、その疑問をぶつけてみた。山崎は「家族や奥さんが離れていって、孤独になって、曲も完成していない。それでも、自分の今までを振り返ったとき、自分は自分にウソをつかずに誇り高く生きてきた。それを貫き通したんだという感じ方。自分の世界観が変わるような達成感は、どこかにあったと思います」と答えた。ありのままの自分を愛して欲しいと願い続けながら闘ってきたヴォルフガング。その願いはかなわず、富も名誉も家族も愛も失い、自分の命も失おうとしている。だが、今、死の淵でアマデと向き合って気付いた。すべてを失おうとも、僕は「アマデ」とともに、自由に正直に、自分にウソをつかずに生きてきた。アマデは影の支配者ではなく、アマデこそ僕だった。僕こそミュージックなんだ、という思いが、あの幸福感が漂う不思議な歌声を生み出していたのだろうか。

 アマデ役の松田亜美(黒木璃七・坂口湧久と交互出演)は、愛らしさと怖さの象徴を見事に演じていた。男爵夫人役の涼風真世(香寿たつきとダブルキャスト)は、さすがの貫録。柔らかく、幅のある声で歌い上げる「星から降る金」の迫力は際立っていた。

 公演終了後、山崎は記者からの「カーテンコールで市村正親や山口祐一郎のあとに出てくる気分は?」という質問に対して、「大先輩を前にして怖かったけど、気持ちがいいと思いました」と笑顔で答えた。逆にしんどかった部分は?という質問には「全部しんどかった。特にヴォルフガングが狂っていくあたりが自分じゃないという部分で…幽体離脱みたいな。演じながらモーツァルトなのか山崎育三郎なのかわからなくなるときもありました。疲労感で倒れこんでしまうこともありましたね」と話した。

◆ミュージカル「モーツァルト!」

《大阪公演》2011年1月8日(土)〜1月25日(火)、梅田芸術劇場メインホール
《金沢公演》2011年1月29日(土)〜1月30日(日)、 金沢歌劇座
詳しくは「モーツァルト!」公式サイト

スター★ファイル

山崎育三郎さんインタビュー全文掲載

 山崎育三郎さんのインタビュー全文を「スター★ファイル」コーナーに「『モーツァルト!』主演 山崎育三郎ロングインタビュー」として掲載しています。スター★ファイルの記事本文を読むにはAstand・ベーシックパック(月額525円)の購読が必要です。ベーシックパックの購読は、こちらから。

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筆者プロフィール

堀内優美
フリーライター。73年生まれ。兵庫県・淡路島出身。行政の企画情報課で広報・番組制作に携わった後、フリーアナウンサーに。新聞・雑誌・WEBなどで記事の執筆、コラムの連載をしている。自身の経験を生かした音楽・舞台・映画といったエンタテインメント分野が得意。司会者や民間教育機関の講師としても活動している。

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