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ステージレビュー

トップスター真飛聖退団公演 宝塚「愛のプレリュード」

2011年2月5日

  • 文・さかせがわ猫丸、写真・岸隆子
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写真:宝塚大劇場公演「愛のプレリュード」より=撮影・岸隆子拡大宝塚大劇場公演「愛のプレリュード」より=撮影・岸隆子

 宝塚花組公演「愛のプレリュード」が、宝塚大劇場で2月4日、初日を迎えました。トップスター真飛聖(まとぶ・せい)さんの退団公演でもあります。真飛さんは1995年に初舞台を踏み、星組を経て2005年花組へ組替え。春野寿美礼(はるの・すみれ)さんの後をうけ、2008年「メランコリック・ジゴロ」「ラブ・シンフォニーII」でトップスターに就任しました。生え抜きからトップを輩出することの多かった花組で、星組の「濃い」イメージが強かった真飛さんの就任は異色でしたが、今ではすっかり花組の顔として、威風堂々としたトップスターに輝いています。そんな彼女のラストステージの幕がいよいよ上がりました。

 1933年、サンタモニカ。有数のリゾート地であるこの地も、世界大恐慌のあおりを受け、今では賑わいを失っている。ボディーガードのフレディー(真飛)は、友人のスティーブ(愛音羽麗/あいね・はれい)とともに、歴史的発明品の完成を目前にした研究者ドイル・ローレン(悠真倫/ゆうま・りん)の屋敷を訪れた。ドイルの研究が無事終わるまでの間、娘のキャシー(蘭乃はな/らんの・はな)の護衛を頼まれたからだ。だがキャシーは、研究が生み出す金の取引に熱心な父を嫌悪し、ボディーガードなどいらないとはねつける。守られる気のないクライアントは護衛出来ないと依頼を断ろうとしたフレディーだったが、突然目の前に思いもよらない人物が現れた。かつてともに国家警察の第一線を駆け抜けた相棒ジョセフ(壮一帆/そう・かずほ)だ。だが、久しぶりの再会にもかかわらず、2人の間には冷たい空気が流れる。

 舞台はいきなりサヨナラのムードにあふれていました。白い中折れハットに白のロングコートと、全身白でいかにも旅立ちスタイルの真飛さんがせりあがり、登場人物みんなに見送られるという、ラストシーンを思わせる演出から始まります。ファンならまずここで涙を誘われそう。相手役は、前作「麗しのサブリナ」から花組娘役トップとなっている蘭乃さん。キャシーは自分をしっかり持っていますが、まだ幼さを残す女性で、それが彼女の若さによく合っていてとても可愛いらしい。壮さんもわけありな男をシャープに演じています。2番手として真飛さんを支えて、息もぴったりなコンビでしたが、今回の作品ではそんな2人の絆がより一層強く感じられる作品となりました。

 束縛を嫌うキャシーは、結局ボディーガードを引き受けたフレディーに冷たく当たるが、まったく気にしない様子で子ども扱いされるため、ますます苛立っている。だがキャシーが時折訪問する孤児院で、子どもたちと触れ合うフレディーを見て、彼への気持に変化が訪れるのを感じていた。一方、不動産業を営んでいるというジョセフは、世の中は金がすべてだと豪語し、昔の彼とは別人のようになっていた。フレディーは金よりも命の大切さを訴える。そこにはフレディーにとって避けられない運命の重さがあった。だがジョセフは聞く耳をもたない。酒の密売や土地の買収で悪に手を染める彼が次に狙っていたのは、とんでもないものだった…。

 子犬のようなキャシーを軽くあしらうフレディーは、ぶっきらぼうなんだけど、時折みせる優しさが憎い「ツンデレ」な人。真飛さんはこういう演技が実に上手いですよね。少し早口なセリフ回しが独特で、大人の色気に満ちています。若手の頃から重い演技ができる、きれいな顔立ちの人だなあと感じていましたが、トップスターに就任してからはさらに急速に成長していったような気がします。少しぽっちゃりしていた頬もシャープになり、いろんなものがそぎ落とされて、今では洗練された大スターとなりました。これが最後の男役だなんて本当に惜しい!

 世の中の無情に失望し、生き方を変えてしまったジョセフですが、そんな悪役ぶりを壮さんは巧みに演じています。その手下には、朝夏まなと(あさか・まなと)さんや望海風斗(のぞみ・ふうと)さん、紫峰七海(しほう・ななみ)さんら威勢のいい面々が弾けています。その中でも華形ひかる(はながた・ひかる)さん演じるリーダー格のマウロは、地味ながらも意外とイイ人で、胸をくすぐられる場面も…。この公演で退団する真野すがた(まの・すがた)さんはローレン家の執事アレン役で、メイド長ジュリーの桜一花(さくら・いちか)さんと軽妙なコンビを演じていて、2人でこっそり小芝居をしているのでこちらも要チェックです。

 物語の軸は命の大切さに加え、フレディーとジョセフの友情が強く描かれていますが、実際のトップ・2番手の立場とどこか重なるようで、余計に胸を打たれました。最後は幕が降り、真飛さんが一人で銀橋をゆっくりと渡ります。その姿は男役トップスターらしい風格にあふれ、長い宝塚人生を物語っているよう。そしてその向かう先には、彼女の新しい人生へと道が長くつながっているようでした。

 ショーはレビュー「Le Paradis!!」。サヨナラものを手がけたら天下一品の藤井大介先生演出です。舞台がパッと一瞬で明るくなり目の覚めるようなオープニングから、たたみかけるようなレビューに突入。真飛さんが客席を降りて、お客さんをピンポイントで見つめるサービスシーンもあります。妖艶な女役となった壮さんが真飛さんに絡むダイナミックなデュエットダンスや、夏美よう(なつみ・よう)さんや悠真さんらアダルトな男役4人の女装も圧巻。後半はサヨナラのムードが高まります。

 組のみんなと順に踊る壮大な「藤井流別れの儀式」的シーンから、幕が劇的に降りて、壮さん・愛音さん・蘭乃さんでしっとりと見送ったあとは黒燕尾へ…ドラマチックな流れです。大階段に男役のみなさんで描く「Y」の字に、ぐっときてしまいました。芝居・ショーともにシンプルでありながらも「素材の良さを十分に生かしました風」演出で、真飛さんたちの卒業をあでやかに彩っています。これで最後となる男役の姿、ほんのわずかな瞬間もお見逃しなく。

◆愛のプレリュード

《宝塚大劇場公演》2011年2月4日(金)〜3月7日(月)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《東京宝塚劇場公演》2011年3月25日(金)〜4月24日(日)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ

スター★ファイル

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筆者プロフィール

さかせがわ猫丸
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

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