現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 舞台
  4. ステージレビュー
  5. 記事

ステージレビュー

感じた月組の団結力 宝塚「バラの国の王子」

2011年3月12日

  • 文・さかせがわ猫丸、写真・岸隆子

写真:宝塚大劇場公演「バラの国の王子」より=撮影・岸隆子拡大宝塚大劇場公演「バラの国の王子」より=撮影・岸隆子

 宝塚月組公演「バラの国の王子〜ボーモン夫人作『美女と野獣』より〜」が、3月11日、宝塚大劇場で初日を迎えました。「美女と野獣」といえばディズニーでもおなじみの有名な作品ですが、今回は宝塚風にバッチリとアレンジされているそうです。とはいっても、主役をつとめる霧矢大夢(きりや・ひろむ)さんは‘野獣’役。美を追求する宝塚で、この矛盾を果たしてどのように表現するのでしょうか。

 しかし初めてポスターを見た時、「カッコいい!」と思ってしまいました。黒光りする硬質な角群、連獅子並みのボリュームある黒紫色の毛髪、唯一獣的な指に鋭く伸びた爪、エイリアン風な柄の衣装、爪先がサイの角なブーツ、そして露出を最大限抑えつつ美しい顔…なんてアート! ベル役の蒼乃夕妃(あおの・ゆき)さんの麗しさはもはや言うまでもありません。さらにプログラムの表紙をめくったら、霧矢さんの顔半分の超アップ…圧倒されました。ファンタジーな世界が期待できそうです。

 バラの花咲く王国には、王(龍真咲/りゅう・まさき)と妃(花瀬みずか/はなせ・みずか)、そして王子(花陽みら/はなひ・みら)が、バラを愛しながら穏やかに暮らしている。だがそんな平和は、妃の妹君(彩星りおん/あやほし・りおん)によって壊された。王を魔法で贅沢や賭けごとに誘惑し、妃を追い出してしまったのだ。やがて妃の座を得た妹君に王子が生まれると、ほどなく王は逝去。自分の息子を王にしようと考えた妹君は、先に生まれた王子を魔法の力で獣に変えてしまう。魔法がとけるのは真実を見抜く女性が現れた時のみとして―。野獣となった王子はその日まで、動物に変えられた家臣とともに失意の日々を送ることとなった。

 ここまでは、虎(明日海りお/あすみ・りお)を始めとする家臣たちのコーラスで物語をつづっていきます。よく知られるストーリーでは、優しい心を持たない王子が魔女から野獣に変えられてしまうのですが、ここを宝塚風にアレンジ。幼い頃の王子はバラの花をこよなく愛する優しい少年で、演じる花陽さんの愛らしさがまぶしく、母の花瀬さんも神々しいまでの美しさです。家臣たちが変身させられるのはティーポットなどの家財道具ではなく、猿、小鳥、ジャガー、リス、きつねなどの動物。それぞれが手に ‘頭’を持っていて、ポーズがちゃんとその動物らしいのも見逃せません。とにかく人数が多いので、舞台の端から端までずらり並べてコーラスも分厚く、宝塚大劇場の大きさを活かしています。

 町に暮らす商人(越乃リュウ/こしの・りゅう)には、わがままで遊び好きの長女(星条海斗/せいじょう・かいと)と次女(憧花ゆりの/とうか・ゆりの)、本を愛する気立てのいい三女ベル(蒼乃)がいる。ベルの美しさを聞きつけた王(龍/2役)は、家来のアンリ(青樹泉/あおき・いずみ)を伴い求婚にくるが、ベルは父を置いては行けないと断った。やがて商人は商いに失敗。嵐のある日、無一文になり迷い込んだ森の屋敷で、何者かに助けられたことに気づく。庭に咲く見事なバラを見た商人は、せめてベルへのみやげにと1本手折ったところ、雷鳴が轟き、野獣が姿を現した。野獣は商人に、バラを折った罪の償いに娘の一人を身代わりに寄こせという。ベルは屋敷に行くことを決意。来るはずはないと思っていた娘がやってきたことに、野獣は激しく動揺するのだった――。

 ダンディー越乃さんのお父さんと心やさしいベル、強欲な姉たちのコントラストが面白くて、登場を待ち望むようになってしまいました。男役星条さんのドレス姿はハーフの顔立ちも映えて、映画に登場する女優みたい。毎回、体当たりの演技が頼もしい憧花さんとコンビで、意地悪な姉たちをコミカルに演じています。蒼乃さんは清楚な雰囲気で、はかなげな演技にも磨きがかかってきました。若き王になった龍さんは凛々しくて、歌唱力もぐっと上がった気がします。家臣たちもそれぞれがその動物らしく動いていて、小鳥チームのコーラスも澄んでいて耳に心地いい。特にこの公演で退団する桐生園加(きりゅう・そのか)さんも、ミスター・モンキーとして軽快にダンシングしています。

 主役の野獣・霧矢さんはといえば、なかなか登場しません。しかし出て来るとインパクト大です。よく見ると芸術的でさえある美しさも、全体から醸し出される雰囲気はやはり不気味。野獣はバラを愛する本来の優しい気持ちを持ちながら、己の姿と引きこもっていることで、複雑な精神構造になっています。家臣たちに囲まれるだけの孤独な日常が、ベルの登場によって波立ち、心が大きく揺れ動きだしました。このあたりの役作りは、さすが霧矢さんとうならされます。 野獣はそんな自分をよく知っていて、ベルに会うことを拒みます。きっと嫌われるに違いないと。そんな戸惑いは2人が心を開きだしてからもぬぐいきれませんでしたが、家臣たちの応援と、ベルの素直さに勇気づけられ、ついに告白を――。

 告白の結果は予想できるものでしたが、凍りつく空気の中、野獣はベルに感謝さえ伝えます。やがて自らの命の火を消そうとする切なさ。そしてベルが気づく野獣への‘同情ではない愛’…。彼らの心情に何度も胸が締め付けられました。ほかにも父から娘への思い、家臣たちの主人を慕いあふれる愛と、涙腺の弱くなったところへ次々と攻めこんできます。もちろん最後は野獣が王子様に戻ってハッピーエンド。ファンタジーの世界を十分に堪能させてもらいました。

 ショーのグラン・ファンタジー「ONE」は、ダービー帽を使ったジャズ風の軽快なオープニングから、スロットマシンのカラフルな場面、有名なクラシック音楽を題材にしたりなど、盛りだくさん。「奇妙な世界一」では、スターが一人ずつ真ん中でダンスを披露します。青樹さんは鞭で猫たちを調教、星条さんはテキーラの瓶をあやつり、桐生さんはマリオネットに、龍さんはギャングでニヒルに、明日海さんはチェアマンにと、おもちゃ箱をひっくりかえしたよう。客席降りもあって、1階すべての通路でダンサーたちが歌い踊るので、ここは一緒に手拍子で盛り上がりましょう。

 その後、しっとりと始まる「ユニコーン」は、霧矢さんの劇場の空気をからめとるようなダンス表現力に引き込まれ、今回最も印象に残った場面でした。そして大階段に並ぶ黒燕尾は、宝塚が誇る芸術美と再確認。霧矢さんが歌で「ありがとう」を連発してサヨナラショーみたいでしたが、今回の「ONE」で伝えたかったというテーマ「ONE FOR ALL、ALL FOR ONE」の、「一人は皆のために、皆は一人のために」という組への想いがこめられていたのかもしれません。月組の団結力を感じた舞台でした。

◆バラの国の王子

《宝塚大劇場公演》2011年3月11日(金)〜4月11日(月)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《東京宝塚劇場公演》2011年4月29日(金)〜5月29日(日)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ

スター★ファイル

宝塚OGのインタビューなど掲載

 宝塚OGを中心とした舞台人へのロングインタビューを「スター★ファイル」コーナーに掲載しています。スター★ファイルの記事本文を読むにはAstand・ベーシックパック(月額525円)の購読が必要です。ベーシックパックの購読は、こちらから。

⇒スター★ファイル 記事一覧へ

筆者プロフィール

さかせがわ猫丸
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介