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ステージレビュー

戦争と大震災、懸命に生きる姿重なる「愛と青春の宝塚」

2011年3月23日

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写真:「愛と青春の宝塚」東京公演より=撮影・岩村美佳拡大「愛と青春の宝塚」東京公演より=撮影・岩村美佳

写真:「愛と青春の宝塚」東京公演より=撮影・岩村美佳拡大「愛と青春の宝塚」東京公演より=撮影・岩村美佳

写真:「愛と青春の宝塚」東京公演より=撮影・岩村美佳拡大「愛と青春の宝塚」東京公演より=撮影・岩村美佳

 第二次世界大戦中の宝塚歌劇団を舞台にした、ミュージカル「愛と青春の宝塚―恋よりも生命よりも―」が、3月19日、20日に大阪・梅田芸術劇場で上演されました。この作品は、2002年正月にテレビドラマとして放映され、2008年12月には舞台化、2009年にかけて全国で11万人以上の動員を誇った名作です。再演となる今回も、2月10日の東京・青山劇場での初日を皮切りに、愛知県芸術文化ホールでの3月27日千秋楽まで全国8カ所をまわり、各地で大きな感動を呼んでいます。(文・さかせがわ猫丸)

 3月11日に東北・関東を中心に襲った東日本大震災を受け、梅田芸術劇場でも募金箱が設置されましたが、ロビーには、この日の18時公演で主役のリュータンを演じる真琴つばささん自らが立たれ、来場されたみなさんからの義援金を募っていました。さっそく私も寄付し、真琴さんに握手していただきましたが、スター自身がこうして呼びかけられていることに感動したと同時に、人の思いは皆同じであることを実感します。奇しくも今回の舞台は、「災害」と「戦争」という事象が違っても、国難であることに重なるものは多く、観る側もいつもとは違った深い気持ちで観劇に臨んでいたかもしれません。

 第二次世界大戦がはじまった1939年(昭和14年)。小さな温泉場で知られた兵庫県宝塚市に生まれた宝塚歌劇団の宝塚大劇場では、連日たくさんの観客が彼女たちの舞台を楽しんでいた。雪組男役トップスターであるリュータン(嶺野白雪)は、その中でもみんなの憧れの頂点だ。新しく入団したタッチー(橘伊吹)、トモ(星風鈴子)、ベニ(紅花ほのか)らも、演出家の影山航や漫画家志望のオサムらに見守られながら、リュータンのようなトップスターを目指している。だが次第に戦争は激化し、ついに宝塚大劇場にも閉鎖命令が告げられる――。

 湖月さん演じるリュータンは、カリスマトップスター。宝塚のトップはいつの時代でも憧れの象徴ですが、華やかなもの自体が少ない当時は、もっと雲の上の存在だったことでしょう。湖月さんは公演前に池田文庫で劇中当時の写真や資料に触れたことで、再演となる今回はそんなカリスマ性をより表現したいと意気込んでいましたが、まさにその通り! 堂々とした舞台姿で観客を一気に惹き付け、姉御肌で後輩たちから尊敬され、一転、恋する乙女のギャップで場内に笑いをも沸かせるという、人間性豊かなスター、そして一人の女性を演じていました。

 没落した名家から捨てられ、孤独に心を閉ざすタッチ―に貴城けい(役替わり/彩輝なお)さん。命の期限を知り、生き急ぐトモに陽月華(同/星奈優里)さん。田舎育ちで屈託のないベニに紫城るい(同/彩乃かなみ)さんと、それぞれのキャラクターが役者にピタリとはまり、まわりの生徒もほとんどが元タカラジェンヌということで、宝塚歌劇そのものの臨場感が味わえます。オサムの松下洸平さん、演出家・影山の岡田浩暉さん、軍人・速水の坂元健児さんら男性陣も芝居を引き締めますが、特に坂元さんの、劇場自体を響き揺るがせるような歌唱力には圧倒されます。

 宝塚の華やかな舞台で切磋琢磨する若者たちにも、厳しい戦況は伝わってきます。やがて劇場の閉鎖へ。特に2幕からはもうハンカチが手放せません。満州へ慰問に行くシーンでは、軍人さんたちがタカラジェンヌを笑顔で迎えてくれますが、その裏に隠された思いの深さ。トモに残された時間、命を賭けて宝塚歌劇を守るリュータン…誰もが恐くて不安で泣き叫びだしたくなる中、自らを律し、国を守り伝統を守り、懸命に生きる彼らの姿は、まさに今の状況と重なるようで、胸を打たずにはいられません。フィクションなのですが、きっと事実と同じ部分も多かっただろうと、いろんな感情がないまぜに沸き上がり止まらない。こうして日本はどん底から這い上がってきたのだという誇りと感動で、劇場内の空気がひとつになったことを強く感じました。

 芝居が終わったあとのショーでは、雰囲気がガラリと変わります。全員が黒を基調にした衣装で、男役を演じていた役者さんたちも、女性らしい色気ものぞかせるシャープなパンツスタイル。戦時中を描いた芝居とは一変し、ロック調のハードなリズムで、「これが現在の私です!」とアピールするかのように、激しいダンスを繰り広げました。もちろん男性陣も軽やかに、特に坂元さんの連続宙返りには客席から歓声も! タカラジェンヌ達がモンペ姿で踊り、さわやかな感動で芝居の幕が降りた後に、ショーで一気に現代へ引き戻されたのも粋な演出です。

 カーテンコールでは湖月さんが、想像を絶する災害が起きた状況でも、舞台から元気や夢を届けていくことは、私たちの使命だと思う、元気をどんどん広げていきたい、と話し、募金の呼びかけもされていました。戦争を知らない世代がほとんどとなった時代で、当時の人々の苦しみと、二度と繰り返さないことを伝えるには、残された書物や写真などの記録、そして語り継いでいくことしかありません。「愛と青春の宝塚」もそうした時代が日本にあったことを伝える貴重な作品として、今後もずっと上演し続けていってほしい。そう強く願った1日でした。

《筆者プロフィール》さかせがわ猫丸 大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

◆「愛と青春の宝塚」 〜恋よりも生命よりも〜

《札幌公演》2011年3月23日(水)、ニトリ文化ホール(さっぽろ芸術文化の館)
《名古屋公演》2010年3月26日(土)〜3月27日(日)、愛知県芸術劇場 大ホール
詳しくは、公式サイトへ

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