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ステージレビュー

芸術と形、舞台で切る「ザ・シェイプ・オブ・シングス」

2011年3月25日

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 過激で挑発的な作風で知られる米国の劇作家、ニール・ラビュートの戯曲「ザ・シェイプ・オブ・シングス」。2001年にロンドンで初演されたこの舞台は、翌年にはオフ・ブロードウェイに進出し、その後も様々な国で上演されている。この翻訳劇の上演台本と演出を、演劇ユニット「ポツドール」主宰の三浦大輔が手がけた。主演のアダム役には、昨年テレビの「ゲゲゲの女房」に出演し、広く知られるようになった向井理。ドラマや映画でめざましい活躍をする向井にとって、これが初舞台となる。サブタイトルに「モノノカタチ」とあるが、「モノ」の迫りくるような存在感が印象的だった。(アサヒ・コム編集部 岩瀬春美)

 アメリカの小さな学園都市が舞台。登場人物が4人だけのシンプルな会話劇だが、その中でアダム(向井理)、イブリン(美波)、フィリップ(米村亮太朗)、ジェニー(川村ゆきえ)、4人の生々しい感情が浮き彫りになっていく。特に大きな事件が起こるわけでもなく、日常生活の中に潜んでいる人間の暗部をえぐり出す。

 ある日、美術館の警備のアルバイトをしていた大学生のアダムは、芸術大学の院生であるイブリンに出会う。「旧約聖書」のアダムとイブを彷彿とさせるような名前の2人。言葉を交わすうちに付き合うことになり、アダムは、イブリンから食事、髪型、服装、体型など、外見について色々とアドバイスされるようになる。彼女の言う通りに、体を引き締め、彼女の望む服を着て、自分を変えていくアダム。外見も振る舞いも洗練されていくにつれ、内面も変わりはじめる。ついには鼻の整形までしてしまったアダムだったが、そのことをクラスメイトのジェニーや親友のフィリップに打ち明けようとしない。

 ジェニーとフィリップは付き合い、婚約するまでの仲になっていた。ジェニーは一度、アダムと2人だけで会ったことがあった。以前、お互い気になっていたことがわかり、2人の心が揺らぐ。アダムの日記を読んでそのことを知ったイブリンは、フィリップに会い2人の密会のことを打ち明ける。4人お互いが、実際に起こったことや聞いたことを明かさずに、恋人、親友、婚約者同士の疑惑の中で争いが増えていく。自身への愛情を試すかのような言動をアダムに繰り返していくイブリン。そして最後に、イブリンがアダムと付き合った本当の理由が明かされる…。

 向井演じるアダムは、外見の変化に伴って、内面も変貌していく様子が見もの。最初に登場したときの姿は、おかっぱ頭に、めがね、くたびれたジャケットにサイズが合っていないだぶついたパンツを身にまとい、猫背で太っている。おどおどした様子で、もごもごと話していたのが、体が引き締まり、服装、髪型が変わっていくにつれ、背筋も伸び、真正面を向いて堂々と話すように。そして、イブリンの要求が過激になればなるほど、彼女の言いなりに変わっていくアダムが無機質に見えてきた。向井は、その愛情なのか依存なのか分からない、アンバランスな感情の変化を好演していた。

 フィリップを演じたのは、「ポツドール」の看板俳優である米村亮太朗。ちょっと口が悪い近所の兄ちゃんが舞台に立っているようなリアリティが光った。イブリン演じる美波は、影のあるミステリアスな女性を表現。アダムを誘惑し、3人の関係をかき回していく様は、まるで小悪魔のよう。ジェニー役の川村ゆきえは、いじらしい女性を演じて、舞台は4人の会話だけの張りつめた空気ですすんでいく。

 演出で印象的だったのは、光の使い方と間合い。満席で熱気あふれる会場が静まって、息苦しさを感じ始めたころ、正面から目のくらむような強い光が放たれた。それが舞台のはじまり。後半、ふたたび暗い闇の中に放り込まれ、しばらくすると客席に明かりが向けられた。舞台上で起こっている問題について、いきなり意見を問われているように感じてドキリ。演出の妙だ。

 この戯曲の大きなテーマは「カタチ」、見た目の問題。アダムの外見が変化していくことで、アダム自身はもちろん、周りの人達の内面も変わっていく様子を丁寧に描いている。ただ、私がこの舞台で感じた特徴は、演出からくる部分の圧迫感。舞台中央には巨大な「モノ」、男性自身を象徴するようなセットが置かれ、その前に落書きされた男性の裸体像の彫刻が存在していた。場面転換がなく、幕が閉じることもなく、そのセットが会話の内容以上に圧迫感を与える演出が意図的になされているのが特徴だ。外見の問題、男性自身を描くことは芸術なのかなど、舞台上での議論を観客自身にも突きつけられている感じがした。圧迫感を通してここで表現しようとしているのは、人間の内にある負の部分をさらけ出すこと。普段なかなか表に出さない暗部にあえて切り込み、真正面から大胆に突きつける作風に潔さを感じた。

 この作品を通して、あらためて実感させられたことがある。タブーとされがちな事や、日常生活では触れにくい人の暗部をえぐり出し、正面切って突きつけられるひとつの手段として舞台が存在すること。さらに、それらをアーティスティックに掘り下げていくのは舞台ならではの魅力だということを。


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