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ステージレビュー

哀しくも妖艶、深い余韻の紀香「マルグリット」

2011年4月7日

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写真:ミュージカル「マルグリット」より=撮影:田中亜紀拡大ミュージカル「マルグリット」より=撮影:田中亜紀

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写真:ミュージカル「マルグリット」より=撮影:田中亜紀拡大ミュージカル「マルグリット」より=撮影:田中亜紀

写真:ミュージカル「マルグリット」より=撮影:田中亜紀拡大ミュージカル「マルグリット」より=撮影:田中亜紀

 2008年春、ロンドンで生まれ、2009年、日本に上陸し大好評を博したミュージカル「マルグリット」が、3月の東京・赤坂ACTシアターに続き、4月6日、大阪・梅田芸術劇場での初日を迎えました(10日まで上演中)。この作品は、ミュージカルの傑作「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」を生みだしたアラン・ブーブリル氏とクロード=ミッシェル・シェーンベルク氏のコンビが、デュマ・フィスの「椿姫」を題材に作り上げたもの。「シェルブールの雨傘」などで知られる映画音楽の巨匠・ミシェル・ルグラン氏の重厚な音楽と、本場ロンドンのセットをそのまま再現したオペラのようなセットが独特の世界観を醸しだし、日本での初演も大成功を収めました。今回は、主演のマルグリット役に藤原紀香さん、ドイツ人将軍でマルグリットを愛人にしているオット―役に西城秀樹さんを迎え、新しい「マルグリット」として再び蘇ります。(文・さかせがわ猫丸)

 第二次世界大戦下のパリ。街はナチスの占領下におかれていたが、かつてコンサートホールを沸かせた歌姫・マルグリット(藤原紀香)は、ドイツの将軍・オット―(西城秀樹)の寵愛を受け、贅沢三昧の暮らしを送っていた。40歳の誕生日パーティーでは、元マネージャー・ジョルジュ(横内正)の手配でバンドも招かれ、仲間たちと飲めや歌えの大騒ぎ。羽目を外すマルグリットに、オットーの苛立ちが頂点に達した時、バンドのピアノ奏者・アルマン(田代万里生)が、マルグリットの持ち歌「チャイナ・ドール」を弾いてその場を収めた。そこへ突然の空襲が起こり、人々は逃げまどう。怯えて立ちすくむマルグリットに、アルマンはその昔、ナイトクラブで歌う彼女を見て以来、密かに想いを寄せていたことを告白するのだった。

 爆撃の轟音とともに始まったマルグリットとアルマンの恋。衝動的に交わされたキスはあまりにも情熱的かつドラマチックで、胸を揺さぶられずにはいられません。そこから一気に弾けた若いアルマンの想いは、常識や理性さえ吹き飛ばし、暴走列車のごとく燃え上がってしまいます。純粋で誠実、ひたすらまっすぐなアルマンに、マルグリットは魅かれながらも、ドイツ人将軍の愛人という境遇と自らの年齢を省みては否定し続けます。切ないです。最近は女性が年上のカップルも珍しくはなくなりましたが、当時は戦時下でもあり、ドイツ人将軍の愛人とバンドマンという身分の違いも合わさり、その許されない愛の度合いは半端ではなかったでしょう。これこそが甘く切ない純愛で、この作品の根底に流れるテーマとなっていました。

 マルグリットを演じる紀香さんは、高身長にボリュームのあるバストと高い位置にある腰が外国人らしいスタイルで、赤いロングドレスがよく似合っています。ミュージカルに挑戦してまだ年月が浅いとは思えないほど堂々としていて、舞台映えするのはさすがでしょうか。アイドル時代に一世を風靡した西城さんも、注目のキャスティングです。脳梗塞という大病からの復活は、舞台の感動だけではなく、勇気さえ与えてくれそう。2度目のアルマン役を演じる田代さんは、3歳から続けているというピアノの生演奏も粋で、テノールの豊かな歌声にますます磨きがかかっていました。ともすれば煩わしささえ覚えそうなアルマンの激しすぎる情熱も、彼のさわやかなルックスと真摯な演技で、「う〜ん…これならマルグリットも揺れて仕方あるまい」と納得させられます。個性豊かなバンドメンバー3人の絶妙なバランスと、少人数とは思わせない紳士・淑女の迫力あるアンサンブルで、作品に厚みも加わりました。

 激しい愛情をぶつけてくるアルマンに、戸惑いながらも拒絶するマルグリット。一方、パリではナチスによるユダヤ人への迫害が厳しくなっていた。アルマンの姉・アネット(飯野めぐみ)の恋人・ルシアン(松原剛志)は、ユダヤ人であることを隠していたが、同じバンドのピエロ(山崎裕太)がナチスに尋問され、答えてしまう。すぐにパリを出る決意をするが、待ち合わせの駅に現れない弟・アルマンの身を案じ、アネットは残ることを決めた。だがアルマンは来ない…なぜなら出発の直前、彼の部屋をノックする人物がいたからだ――。

 ロンドン、日本初演、そして今回で3回目の「マルグリット」。私はラッキーにも全部観ることができましたが、観れば観るほどジワジワくる作品だと実感しました。特にその音楽。初めて観た時からいくつものメロディーが耳に残り、各場面の印象が深く刻みこまれます。マルグリットの持ち歌「チャイナ・ドール」はいうまでもなく、鏡に映った自分に語りかける「鏡よ」、傷ついたアルマンが魂をぶつけるように歌う「愛しても何が残る?」など名曲の数々が、登場人物の心情をドラマチックに物語ります。アンサンブルが何度も繰り返す「デイ・バイ・デイ」は、日和見主義な紳士・淑女たちの冷酷さを表すテーマソングになっていますが、この曲はリズムを変え、アルマンのバンド仲間がかつて幸せだったころを懐古するシーンにも登場していました。このように同じ曲が場面によって異なる印象を与えるなど、音楽が実に効果的に使われていて、ミュージカルの醍醐味を味わえるのがたまりません。

 フランス人でありながら、ドイツ将軍の愛人になったマルグリットはいわば国を裏切った女。恩恵にあずかろうと紳士・淑女たちも彼女をちやほやしますが、若い恋人との純愛ですべてをなくしたことで、すべてが手のひらを返すように変わってしまってしまう…。結末はあまりにも重く悲しいものですが、ただ悲惨さだけが伝わったのではありません。演出家のジョナサン・ケント氏が描いたマルグリットの「心の旅」は、あとから押し寄せるさざ波のような静かな感動を、深い余韻として残してくれました。

 終演後は出演者全員が2列になってずらりとロビーに立ち、東日本大震災への募金活動を行いました。客席から溢れだしたお客様が、観劇後の興奮に浸るまま、列をなして次々と募金して行きますが、紀香さんはその一人一人に笑顔で丁寧にお礼を言い、頭を下げています。こんな時だからこそ生まれる密接な空間を、出演者とお客様が共有しているようで、ロビーがひととき、温かな空気に包まれていました。

 その後の会見で紀香さんは「東京公演の初日に震災が起こりました。それから6日間、公演が中止になりましたが、余震も続く中、再開して本当にいいのかとても迷い、不安でしたが、こうして募金活動で毎日お客様と触れ合い、『来て良かった』『嬉しい』と笑顔をいただき、エンターテイメントの力を実感しています。この作品にこめられている『愛する人を守りたい、救いたい』という熱い思いとともに、毎日続ける募金活動の義援金を、被災地にもしっかり届けたい。この公演が終わったら、赤十字を通して現地へ駆けつけたいと思っています。私は、人の笑顔が好き。その笑顔を見るために、これからも頑張ります」と、熱く語りました。おっとりとした関西弁で真摯に話し、積極的に募金活動で声を出す紀香さんと、さきほどの哀しくも妖艶なマルグリットは大変なギャップがあり、そこがまた魅力的で、こちらも深い余韻を残してくれました。

《筆者プロフィール》さかせがわ猫丸 大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

◆ミュージカル「マルグリット」

《大阪公演》2011年4月6日(水)〜4月10日(日)、梅田芸術劇場 メインホール
詳しくは、公式サイトへ

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