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ステージレビュー

振り幅の大きさが魅力 劇団☆新感線「港町純情オセロ」

2011年4月21日

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写真:劇団☆新感線「港町純情オセロ」公演より=撮影:田中亜紀拡大劇団☆新感線「港町純情オセロ」公演より=撮影:田中亜紀

 劇団☆新感線の新作「港町純情オセロ」(青木豪脚色・いのうえひでのり演出)が上演中だ。シェークスピアの四大悲劇のひとつ「オセロー」を、戦前の関西の港町に置き換え、ヤクザたちの抗争を描く。原作を忠実になぞりつつ、独自の笑いを加えた、シリアスとコミカルの振り幅が大きい活劇だ。橋本じゅん演じる主人公・オセロが、嫉妬による悪意に気づかないうちに翻弄され、自身を見失っていく様が、日常の人間関係にも当てはめられ、後を引く。(アサヒ・コム編集部 岩瀬春美)

 1930年、戦前の混沌とした時代の関西の架空の港町・神部(かんべ)が舞台。ブラジル人と日本人の間に生まれた藺牟田(いむた)オセロ(橋本じゅん)は、藺牟田組の組長を務めている。入院した先で、院長の一人娘・モナ(石原さとみ)に出会い、結婚。若くて美しいモナが半ブラと蔑まれるオセロと結婚することを周囲から反対されるも、2人はお構いなしで“ラブラブ”だ。

 一方、組のナンバー2の伊東郷、通称ミミナシ(田中哲司)は、一流大学出身のエリート、汐見秀樹(伊礼彼方)が次期若頭に指名されていると聞き、心の奥底にあったオセロへの憎悪を一気に燃やす。そんな中、組同士の抗争が勃発し、舞台は小豆島(あずきじま)へ。オセロとオセロを取り巻く全てを憎むミミナシは、汐見、モナ、倶楽部のオーナー・三ノ宮亙(粟根まこと)、ミミナシの妻・伊東絵美(松本まりか)、ミミナシを慕う絵美の弟・沖元准(大東俊介)までも言葉巧みに操り、本人たちの気づかないところでコマとして動かしていく。オセロ本人には、モナが汐見と浮気していると婉曲に吹き込み、嫉妬心を煽り、貶めていく。真っ直ぐな男オセロが、翻弄され、次第に自身を見失い、心が「嫉妬」に支配されたとき、悲劇が起こる――。

 オセロを演じるのは、新感線の看板俳優・橋本じゅん。昨年の秋の公演「鋼鉄番長」を体調不良でやむなく途中降板した橋本だが、冒頭、腰痛がネタになっているかのようなシーンで、完全復活をアピール。手足の動き、体のふりなど、コミカルな身体表現で笑わせる器用さはさすが。藺牟田組の組長としての表の顔、そしてモナを溺愛し、愚直なまでに純情だからこそコロっとだまされてしまう愛嬌たっぷりな裏の顔、嫉妬心から自身を暴走させてしまうシリアスな顔、その3つの顔をまるで興福寺の阿修羅像のような多面的な演技で見せる。

 石原演じるモナは、パンフレットに「匂い立つばかりに美しく若い女」と書かれているように、若さあふれる魅力的なヒロインだ。公演ポスターの鋭い印象とは打って変わって、舞台上ではキャピキャピ、甲高い声で騒ぐ、そのギャップに驚かされた。それでいて、オセロのよさを語る言葉に時折ぐっとくるものがあり、一途な思いを貫く芯の強さが垣間見える。

 この物語の本当の主役は、ミミナシこと伊東郷(田中)。オセロを地獄に陥れようとする屈折した暗いキャラだけど、どこか憎めないところも。嫉妬心に支配された男の悲哀を泥臭く表現。そのミミナシの様子を冷静に見つめる妻、伊東絵美(松本)。コミカルなキャラクターが多い中、ただ自然に舞台に立っている。そんな1歩引いた存在感が、舞台を引き締める。また、汐見演じる伊礼が登場したとき、舞台に突然さわやかな風が吹いたようだった。さすがはミュージカル俳優。周りのヤクザたちと明らかに空気感の違いがあるのに、不思議と融合しているのが面白い。実直でまっすぐな男の役がぴったりはまっていた。オーナー・三ノ宮(粟根)の化身ぶりはとにかく楽しい。いつも思わぬところに身を潜めていて、とつぜん飛び出てくる様は、まるでびっくり箱のよう。

 そして、原作に忠実に描かれているからこそ、原作にはないオリジナルキャラクター、ゲイの准(大東)の存在が気になった。前半はあっけらかんとして明るかったのに、後半になるとガラリ。ミミナシへのかなわぬ思いをしんみりと語ったり、そのミミナシに裏切られ、決定的な悲しみに打ちひしがれたりと、舞台の前後で喜怒哀楽の感情の振り幅が大きくなっていった。じつは准の存在が、オセロの心のゆらぎを際立たせているのではないかと思った。

 印象に残ったモナのセリフがある。それは、皆、体に赤い血が流れている、あとは「心の色」次第というもの。目に見える「色」をあえて目に見えない「心」に結びつけている言葉が「心の色」。愛する人の心の中が見えたら…。でも、人の心の中なんて分かるはずがない。それでも、オセロは純情だからこそ、見えないものを必死に見ようとしてしまう。その心の葛藤が、嫉妬につながるのだろう。この作品のテーマは原作どおり「嫉妬」。オセロは、この嫉妬という感情にだまされてしまったのだ。だまされるから「オセロ」。肌の色も、心の色も、愛情の形もさまざま。ゲームのオセロの白黒の石のように、すべてが表裏一体のあやうさをはらんでいる。

 それにしても、オセロとモナの幼稚な“ラブラブ”ぶりが、かわいくて、おかしい。愛する人の前では、徹底的にアホになれる。こんな突き抜けた愛情表現をとことん披露されると、恥ずかしさを通り越して、むしろ痛快。

 新感線は、集団としての魅力を余すところなく見せてくれる。チンピラ、ヤクザたちによる殺陣はさすがの見ごたえ。そして、ダイナミックで立体感のある演出が鮮やか。神戸から小豆島へ船で向かうシーンでは、舞台の幕が閉じ、その幕が半透明のスクリーンと化した。海と島が映し出され、船に乗ったオセロたちが舞台上に透けて見える。派手な演出にコミカルな演技、たくさんの笑いの中に、垣間見える現実世界。素早い舞台転換でクライマックスに流れ込んでいく。原作に忠実な悲劇であることに変わりはなく、最後は心にずしっときた。表裏一体、コミカルとシリアスの振り幅が大きい新感線版「オセロ」。見終わったあとは、悲劇なのに爽快感すら感じられた。

◆劇団☆新感線「港町純情オセロ」

《大阪公演》2011年4月15日(金)〜2011年4月22日(金)、イオン化粧品 シアターBRAVA!

《東京公演》2011年4月30日(土)〜2011年5月15日(日)、赤坂ACTシアター

詳しくは劇団☆新感線「港町純情オセロ」公式サイトへ


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