現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 舞台
  4. ステージレビュー
  5. 記事

ステージレビュー

甘く危険な耽美の世界も、宝塚バウ「ニジンスキー」開幕

2011年4月28日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真:宝塚バウホール公演「ニジンスキー」より=撮影・岸隆子拡大宝塚バウホール公演「ニジンスキー」より=撮影・岸隆子

 雪組バウ・ミュージカル「ニジンスキー―奇跡の舞神―」が、バウホールで4月28日初日を迎えました。主演の早霧せいな(さぎり・せいな)さんが演じるのは、伝説のバレエ・ダンサー、ヴァーツラフ・ニジンスキー。美貌と才能に恵まれた彼の、栄光と破滅に彩られた半生を描くミュージカルです。耽美なムード漂う早霧さんなら、ごく自然に溶け込んで行きそう。ヴァーツラフの妻を演じるのは、愛加あゆ(まなか・あゆ)さん。大劇場新人公演やドラマシティ―公演でヒロインを演じるなど着実に経験を積み、今回も堂々の相手役です。しかし今回の公演、主演コンビの恋愛ものとは少し違っていて…。(文・さかせがわ猫丸、写真・岸隆子)

 1910年、パリ・オペラ座公演では、ロシアバレエ団による「シェエラザード」が初日を迎え、金の奴隷に扮したヴァーツラフ(早霧)の舞に人々は酔いしれた。ヴァーツラフの今があるのは、その才能を見い出し育て上げたバレエ団主宰者のセルゲイ(緒月遠麻/おづき・とおま)のおかげだ。セルゲイはロシアバレエをより世界に認めさせるため、パトロン探しに力を入れていた。だがヴァーツラフは、そんな彼への恩義と、自分が進みたい道との狭間で苦悩していた。ある日、稽古でプリマのタマラ(五峰亜季/いつみね・あき)を怒らせ、落ち込んだヴァーツラフに、彼のファンで入団してきたロモラ(愛加)が声をかける。優しいロモラに、頑なだったヴァーツラフの心は徐々に開き始めた。

 早霧さんはさすが一流バレエダンサーの役らしく、冒頭から一人で踊るシーンで登場します。ターバンを巻いた黄金の衣装で踊る早霧さんのバレエシーンは、なるほどいつもの宝塚の男役ダンスとはかなり趣が異なります。それもそのはず、モーリス・ベジャール・バレエ団出身の小林十市さんが振付された本格的なものでした。豊かな表現力が試される、この長い長いダンスシーン。息をつめるように見入ってしまいます。

 セルゲイ役の緒月さんは、公演を重ねるごとにどんどん迫力を増してきました。これまでも重厚な役柄が少なくありませんでしたが、今回は、ロシアバレエ団の辣腕主宰者でダンディーなひげのオジサマ。誰にも文句は言わせないぞと言わんばかりの存在感で、圧倒されます。ひたすらヴァーツラフを寵愛しているのですが、なんとそれは性別をも超えた禁断の愛…。彼の濃く深い愛情が、ヴァーツラフを見えない鎖でしばりあげるという、美しいタカラジェンヌたちが演じる甘く危険な耽美の世界に、ちょっとドキドキしてしまいます。

 それにしても早霧さんは美しい。特に、強い光を放ってキラキラ輝く目元が印象的で、そりゃセルゲイも夢中になりますわなと、納得せざるをえません。

 愛加さんは可愛らしい丸顔で癒し系。ヴァーツラフを包み込む、母性的な優しさに溢れたロモラを丁寧に演じています。

 公演の成功にも、ヴァーツラフの心は晴れなかった。やがて自分で振り付けた作品を心のままに踊りたいと考え、セルゲイにギリシア神話の「牧神の午後」を提案する。半獣半人の醜い牧神を演じることで、決して朽ちることのない精神世界を表現したいのだと言う。振付師としては未知数のヴァーツラフだったが、セルゲイはこれを来シーズンの目玉公演と決めた。バレエ団の振付師ミハイル(大凪真生/おおなぎ・まお)やダンサー・アドルフ(大湖せしる/だいご・せしる)ら団員の反感を買いながら、ついに初日の幕が上がる。だがそこで繰り広げられたヴァーツラフの踊りは、皆の想像をはるかに超えたものだった―。

 ヴァーツラフが振付を考えた「牧神の午後」のステージで1幕の終わりを飾りますが、これがまさに神話の世界に入り込んだような美しさ。獣を模したメイクと衣装で、斬新過ぎる舞台に観客役の人達は驚愕するのですが、現代の私たちが観ると素直に素晴らしいと感動します。雰囲気を高める照明と、ポーズの一つ一つが芸術性に溢れていて、このダンスシーンもこの作品の目玉となっていました。

 ヴァーツラフは全編に渡って苦悩し続けています。自分らしく踊りたいという思いと、囚われるようなセルゲイの愛情との葛藤は、まさに壮絶といえるでしょう。やがてヴァーツラフは狂気の世界へと墜ちて行くのですが、早霧さんの鬼気迫る演技はとにかく見ごたえがありました。

 芝居の後についたショーの黒燕尾でも、なんと、緒月さんと早霧さんが絡むシーンがあります。とことん禁断かつ耽美な世界を追求した今回の作品、宝塚にしか出せない美しさというものをあらためて実感させてもらいました。

◆「ニジンスキー」

《宝塚バウホール公演》2011年4月28日(木)〜5月8日(日)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《日本青年館大ホール公演》2011年5月13日(金)〜5月19日(木)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ

 <筆者プロフィール>さかせがわ猫丸 大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。


検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介