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ステージレビュー

時間をさかのぼりつつ人生の大切な瞬間を描く「紅姉妹」

2011年5月10日

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写真:舞台「紅姉妹〜べにしまい〜」より拡大舞台「紅姉妹〜べにしまい〜」より

 篠井英介と、深沢敦、大谷亮介の俳優3人が「女」に取り組もうと2003年に結成したユニット、3軒茶屋婦人会。その第4回公演となる「紅姉妹」(べにしまい)が各地で上演されている。1人の男を愛した3人の恋模様と友情を、時間をさかのぼる形で描く舞台。ささやかな、しかし大切な人生のひとつひとつの瞬間が、解きほぐされるように、ゆったりと表現されている。(文・堀内優美)

 3軒茶屋婦人会は、第1回公演「ヴァニティーズ」を皮切りに第2回公演「女中たち」、第3回公演「ウドンゲ」と、公演を重ねてきた。

 今回の第4回公演「紅姉妹」は、大阪出身の劇作家・わかぎゑふの書き下ろし作品。物語は2012年のニューヨークから始まる。バー「紅や」で1人たたずむ80歳を超えたミミ(篠井英介)。木箱から大事そうに酒のボトルを出し、グラスに注いでグイと飲み干す。「あたしたち3人は最高の姉妹だったわね」―その昔、「紅や」には3人の「女」が暮らしていた。同じ1人の男を愛し、1人の息子を育てあげた彼女たちは、実の姉妹以上の絆で結ばれていた。ここからは回想のように、現代から過去へ、時代がどんどんさかのぼって進んでいく―。

 2001年、ミレニアム。年が変わったばかりの1月1日の深夜、外出していたジュン(大谷亮介)とベニィ(深沢敦)が慌ただしく店に戻ってくる。そこへ結婚して店を出ていたミミも登場、出会いから今日までの時間をかみしめるように会話に花が咲く。ところが、それぞれが隠していたことを白状する流れへ。他愛もない隠しごとの暴露にまぎれ、とんでもない「真実」が飛び出す…。

 時間が経過していく設定ではなく、過去へ過去へと進む構成は、ある意味、ミステリーの謎解きのような面白さがある。舞台転換はなく、舞台上にいるのは3人だけ。なのに、会話から息子、夫、恋人など、関わりをもっていた人物像がはっきり目に浮かんでくる。

 姉妹の過去が次第に明かされるという大きな枠組みの中で、太平洋戦争から現在に至る日本とアメリカの姿も浮かび上がる。3人は、敵性外国人として強制収容された後に志願して日系人部隊に入り戦死した1人の男性を愛していた…。

 ノスタルジックな音楽とお酒も作品に彩りを持たせる。姉妹が折に触れて歌うイギリスのスタンダード・ナンバー「ハーバー・ライト=港の灯」は1937年に作られた歌。歌い方で年齢の老若を演じ分けているのも、芸が細かい。また、姉妹が好むお酒「ノアズミル」は、度数57.15パーセントのバーボンの一種で、味わいは優しく甘みが強い。重要な出来事が起きるたびに「特別に」そそがれるこの酒の使い方もイキだ。

 着物で登場する場面では、深沢敦の着付けが見もの。谷崎潤一郎の長編小説「細雪」の真似事をし、大阪弁でおふざけしながらはしゃぐ様子は女性らしく愛らしい。わかぎゑふらしいセリフの応酬に観客席の笑い声が高くなった。

 逆走しながら演じられる等身大の3人の女性に、全く違和感がない。始まりからラストまで、「彼女たち」を演じているのが男性だと感じさせられることはなかった。

 「女の人たちにエールを送れるようなものにしたい」―公演前、アサヒ・コムのインタビューで篠井英介が語ったように、女性はもとより男性も楽しめる、そして、みんな頑張って生きてきたんだよねと、ふと声をかけたくなるような作品だ。

◆3軒茶屋婦人会「紅姉妹〜べにしまい〜」
《東京公演》終了
《大阪公演》終了
《北九州公演》北九州芸術劇場 中劇場 2011年5月15日(日)
詳しくは、公式サイトへ

〈筆者プロフィール〉堀内優美 フリーライター。73年生まれ。兵庫県・淡路島出身。行政の企画情報課で広報・番組制作に携わった後、フリーアナウンサーに。新聞・雑誌・WEBなどで記事の執筆、コラムの連載をしている。自身の経験を生かした音楽・舞台・映画といったエンタテインメント分野が得意。司会者や民間教育機関の講師としても活動している。


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