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ステージレビュー

笑って泣いて、「運命」を考える「デスティニー」

2011年5月24日

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写真:30−DELUX「デスティニー」公演より=PHOTO:KAZUNORI ITO拡大30−DELUX「デスティニー」公演より=PHOTO:KAZUNORI ITO

写真:30−DELUX「デスティニー」公演より=PHOTO:KAZUNORI ITO拡大30−DELUX「デスティニー」公演より=PHOTO:KAZUNORI ITO

 5月22日に千秋楽を迎えた演劇ユニット30−DELUXによる舞台「デスティニー」は、笑いあり、涙ありの壮大なアクション・エンターテインメントだった。(文・中本千晶)

 30−DELUXは、清水順二、タイソン大屋らが2003年に立ち上げた演劇ユニットで、「デスティニー」が9作目となる。10分前から清水・タイソンの2人による熱い前説があり、幕が上がる前から客席は笑いの渦。

 物語の舞台は、大盗賊団ゴンタルの侵略を受け、滅亡寸前の弱小国ライカ。王家の血筋でたった一人生き残った王女ユミン(城咲あい)の誘拐事件にまつわる争いのなかで、ジンという男がアランという男に斬られたところから始まる。

 ジン(佐藤アツヒロ)はかつてライカの民だったが、自ら顔を焼き、ゴンタルの手先となることで生き延びてきた卑屈な男だった。命の灯も尽きかけたそのとき、目前に現れたのが、悪魔シャイターン(タイソン大屋)。ジンは悪魔から、「お前を生かし、力を与えよう。その代わりにこれから666日以内に、6666人の命を奪え」という、とんでもない契約を持ちかけられ、命惜しさに合意してしまう。

 生まれ変わったジンはテムジンと名を変え、ライカの軍に加わる。それが悪魔との契約を果たす最短の道だからだ。テムジンはゴンタルからライカを救うことを誓い、王女ユミンはテムジンに国の運命を託す。こうして、救国の名目のもと、悪魔との契約を果たすための殺戮が始まった。

 いっぽうアラン(風間俊介)は、じつはライカの大将軍タムトック(坂元健児)からゴンタルに送り込まれた密偵だった。ジンを斬ったことでゴンタルに潜り込むことに見事成功したアラン。ところが、やがて敵軍ゴンタルの首領の息子グリューン(清水順二)やその妹アイシャ(はねゆり)らとの間に、友情が生まれていく…。

 はからずも英雄に祭り上げられ、王への道をたどるテムジン。祖国への忠誠心と敵軍の人々との絆の狭間で、自分らしく生きられないアラン。似た者同士だが対照的な「運命」をたどる2人の男の運命の糸が交わる時が、次第に近づく。ラストの立ち回りは、目にも留まらぬスピード感で思わず息を呑む。

 2人の周りを、個性豊かな共演陣が支える。大将軍タムトックを演じる坂元健児は、今回のカンパニーの最年長者として、腹芸で芝居を締める。紅ニ点、ライカの姫ユミンの城咲あいは王女の気品と誇りを見せ、ゴンタルの首領の娘アイシャ役のはねゆりは男性陣のなかでも決して引けを取らない立ち回りを見せた。

 立場は違えど、どの登場人物も己の信じる道を信じて生きている、その生き様の交わりが丁寧に描かれているのが心地よい。

 そのいっぽうで、突然織り込まれるコミカルなやりとりに虚を突かれる。悩める悪魔シャイターンと天使たちによる「天空会議」の場は、お客さんも巻き込んだやり取りも盛りだくさんで、お楽しみの場面だ。サンシャイン劇場では、悪魔シャイターンが何と二階席に現れて、客席を驚嘆させる一幕も。

 交錯する生き様。迫力の立ち回り。緩急自在の展開のなかで笑って泣いて、まるでジェットコースターに乗ってるかのよう。そして幕が降りたとき、ふと「デスティニー=運命」というタイトルがストンと胸に落ちてくる。ああ、これが30−DELUXワールドなんだなと納得した。

 《筆者プロフィール》中本千晶(なかもと・ちあき)フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)。Astandスターファイルでも「ヅカナビ」連載中。


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