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ステージレビュー

三成の苦悩を斬新なビジュアルでみせる「美しき生涯」

2011年5月23日

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写真:宝塚大劇場公演「美しき生涯」「ルナロッサ」より=撮影・岸隆子拡大宝塚大劇場公演「美しき生涯」「ルナロッサ」より=撮影・岸隆子

 宝塚宙組公演「美しき生涯―石田三成 永遠(とわ)の愛と義」が、5月20日、宝塚大劇場で初日を迎えました。久々の戦国もので、業火をバックに武将姿のトップスター大空祐飛(おおぞら・ゆうひ)さんが凛々しいポスターも印象的です。脚本は大石静さん、音楽は大島ミチルさんと、今、テレビドラマ等でひっぱりだこのお2人が参加され、凰稀かなめ(おうき・かなめ)さんが星組より異動したことも加えて、話題満載の公演となりました。(文・さかせがわ猫丸、写真・岸隆子)

 「豊臣秀吉と茶々の子は、実は石田三成の子であった」―なんと、こんな大胆な仮定をもとに作品は描かれています。戦国武将・石田三成は、誰もが知る歴史上の人物。‘今日の味方は明日の敵’が常である戦国の世で、豊臣秀吉に忠義を貫き、知性豊かで正義の男だったと伝えられる三成の人物像に魅かれる人は少なくありません。そんな彼の生き様をベースに、秀吉への忠義と茶々への愛に揺れる葛藤を描くと聞けば、歴史が苦手な方でもググッと引きつけられるのではないでしょうか。脚本を書き下ろした大石静さんは、幼い頃からの宝塚ファンとのこと。ツボを心得たアレンジで、外部からの新しい風を吹き込んでくれるのも楽しみですね。史実などはひとまず横に置いておき、ここは宝塚が織り成す独自の世界に浸ってみましょう。

 大坂城で盛大に行われる花見の宴。豊臣秀吉(未沙のえる/みさ・のえる)は、大勢の武将や奥方とともに、七本槍と呼ばれる武将たちの剣舞や、石田三成(大空)の舞いに酔いしれていた。そこへ、側室である茶々(野々)が男の子を産んだとの知らせが入る。狂喜乱舞する秀吉。だが、その様子を見守る三成の胸中は複雑だった。

 幕開けは華やかな戦国の春の宴。七本槍のメンバーは、福島正則を演じる北翔海莉(ほくしょう・かいり)さんをリーダー格に、加藤清正の悠未ひろ(ゆうみ・ひろ)さん、十輝いりす(とき・いりす)さん、春風弥里(はるかぜ・みさと)さん、鳳翔大(ほうしょう・だい)さん、蓮水ゆうや(はすみ・ゆうや)さん、凪七瑠海(なぎな・るうみ)さんと、宙組の若手スターが凝縮しています。舞い踊る彼らの足元は、なんとブーツ。大空さんの石田三成に至っては、ラメ入りの超ロング羽織にブーツ、髪型も無造作に束ねたストレートロングと、和と洋のコラボレーションで徹底的にビジュアルを追求していますので、歴史の教科書をイメージしてはいけません。でも、これこそが宝塚の良さなんです。大空さんのクールなまなざしに、対照的なゴージャスでボリュームある衣装が一層映えて、あまりの美しさに思わずうっとり…。

 時代はさかのぼり天正10年(1582年)夏、清洲城下。伯父・織田信長が非業の死を遂げた直後にもかかわらず、豊作を喜ぶ領民たちに、茶々(野々)は怒りを抑えられない。そこへ通りがかった石田三成(大空)が、茶々に民を思いやる心と命を大切にすることを諭す。同じ近江の生まれだと知った2人は、ほのかに心が通い合うのを感じた。

 天下統一を目指す右腕として知力を使い、秀吉の信頼を厚くする三成に、武闘派の七本槍は面白くなく、特に福島は敵意を燃やしている。翌年、秀吉軍は柴田勝家の北ノ庄城を攻めた。秀吉を嫌って柴田に嫁いだ市(妃宮さくら/ひみや・さくら)は、娘の茶々を甲賀の忍び・疾風(凰稀)に託し、死を選ぶ。燃え盛る炎の中、秀吉軍を率いる三成と茶々は再会するが、母の後を追おうとする茶々に、三成は自らに課せられた3つの使命と、生き抜くことを説いた。

 やがて穏やかな日々が流れ、次第に魅かれあう2人だが、身分の違いはあまりにも大きく、三成はその想いを心に押し殺すしかない。そんなある日、秀吉は三成に、茶々を側室に迎えることを告げた――。

 野々さんはいつもながら、役が憑依したかのような演技力で勝気な茶々になりきり、安心して魅せてくれます。凰稀さん演じる疾風は影に徹し、同じく忍びのさぎり(純矢ちとせ/じゅんや・ちとせ)を手玉にとるなど、妖しさもたっぷり。やがて三成との間に「茶々を守る光と影」として友情のようなものも生れますが、最後まで報われない哀しさは、もしかしたら登場人物中、一番切ないかも。

 七本槍のみなさんは血気盛んで陽気な若者たちです。それぞれが奥方たちにタジタジするシーンも楽しいのですが、ここで注目なのが、加藤清正の妻を演じる風莉じん(かざり・じん)さん。歌が上手で、すでにおじさまの風格すら漂う芸達者な男役ですが、ここでは「こんなおばちゃん、いるいる!」と思わせる勢いでロックナンバーを歌い踊り、期待を裏切りません。

 福島を演じる北翔さんの確かな実力も、舞台を引き締めています。自らの野望を歌う銀橋ソロは、劇場に響き渡る迫力。三成へのたぎらせる敵意がやがてどう変化して行くのかにも、ぜひご注目ください。

 「大一大万大吉」が組み合わさった文字がたびたび登場しますが、あれは石田三成の紋で、「一人が万民(大)の為に、万民が一人の為に」という意味なんだそうです。三成は謀略を好まず、いかなるときでも正々堂々と突き進み、民が豊かに暮らせることをひたすら願っていました。真面目すぎて不器用な男ですが、その真摯な姿が、より一層、雄々しい生き様と滅びの美学を際立たせるのかもしれません。主君に愛しい人を渡さざるを得ない三成の苦悩に、見ていて胸を打たれるのはもちろん、嫉妬や悔恨がないまぜとなった感情を表現するかのような赤い炎に、大空さん自身が焼かれるようなダンスシーンは圧巻で息をのみました。

 シチュエーションは違えど、やや積極的な野々さんと、それに押されながらも己の立場をブレーキに踏み出せない大空さんの結ばれぬ恋、という構図は、「トラファルガー」「誰がために鐘は鳴る」、そしてこの「美しき生涯」と、続いています。さすがとことん哀愁と影が似合う男役・大空祐飛。「この手を取ってはくれないけれど、義を重んずるそんなあなただから好きなのよ」と思わせる何かがあるんですよね。今回もそんな大空さんの魅力が如何なく発揮された公演といえるでしょう。

 秀吉を演じる未沙さんの狡猾さをもにじませる重厚な演技と、北の政所おねを演じる美穂圭子(みほ・けいこ)さんの熱唱など、専科の方の見せ場もたくさん。大島ミチルさんの音楽が、乱世に咲く甘く切ないラブストーリーを盛り上げ、宝塚にしか描けない戦国ものとして、新たな世界が築かれていました。

 ショーは、レヴュー・ロマン「ルナロッサ―夜に惑う旅人―」。中近東をイメージした舞台で、幻想的な世界が繰り広げられます。賑やかな「バザール」では大勢の人々があふれ、それぞれ活躍するご贔屓をチェックするのに忙しくなりそう。ダイナミックな凰稀さんの女役と悠未さんのダンスがセクシーな「月下美人」や、KAZUMI−BOYさんの振り付けが光る「祈り」は、このショーの目玉シーン。退団する七瀬りりこ(ななせ・りりこ)さんの素晴らしい歌唱力による、感動のエトワールも印象的です。本格的なショーは1年ぶりだという宙組メンバーの、弾けるエネルギーを体感した舞台でした。

◆「美しき生涯」
《宝塚大劇場公演》2011年5月20日(金)〜6月20日(月)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ
《東京宝塚劇場公演》2011年7月8日(金)〜8月7日(日)
詳しくは、宝塚歌劇団公演案内へ

 <筆者プロフィール>さかせがわ猫丸 大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。


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