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インタビュー

ジャズ界の貴公子、ハクエイ・キムが奏でるピアノに酔う

2011年5月26日

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写真:「トライソニーク」公演より=ビルボードライブ大阪拡大「トライソニーク」公演より=ビルボードライブ大阪

写真:「トライソニーク」公演より=ビルボードライブ大阪拡大「トライソニーク」公演より=ビルボードライブ大阪

 凄腕のテクニックと聴き手の琴線に触れる作曲で注目を集めるジャズピアニスト、ハクエイ・キムが、ピアノ・トリオ・ユニット「トライソニーク」を率いてビルボードライブ大阪で公演を行った。今年1月に発売されたばかりのメジャー・デビュー・アルバム「トライソニーク」を引っ提げ、ビルボードでは初登場となった。このライブを聴き、終演後のハクエイに話を聞いた。(文・堀内優美)

 【「トライソニーク」が試聴できるページ

 ハクエイは京都で生まれ、北海道で育った、日本人と韓国人のクオーター。5歳の頃からピアノを始め、高校時代にはロックバンドを結成、卒業後はオーストラリアの音楽院でジャズを学んだ。2005年にはデビュー・アルバムが仏ジャズ誌で高く評価され、今年1月、日本ジャズ・シーンの中核を担う、杉本智和(ベース)、大槻“KALTA”英宣(ドラムス)と共に、三位一体のユニットとして「トライソニーク」を結成した。

 「トライソニーク」は3つの造語からなり、「トライ=3」「ソニック=音」「ユニーク=唯一無二」という意味を持つ。 アルバムには、 激しい加速テクニックを駆使したナンバーから、ロマンティックなバラードまで、ハクエイのオリジナルを核に、アジアンテイストから東ヨーロッパ、無国籍的な音楽と、トリオによるドラマティック・パフォーマンスが織り込まれており、聴いているだけで世界旅行をしているような気持ちにさせられる。

 4月5日のライブのオープニング曲は「トライソニーク」。バンド名でもあり、アルバム名でもある同曲は、都会的かつ抒情的、繊細で力強いピアノに重低音で響くベースと勢いのよいドラムが挑む。タイトルになるだけあって、アグレッシブで、アップテンポ。3人のパートを通じてそれぞれの個性がぶつかりあう競演は、まるで戦場で男たちが戦いを繰り広げるようなセッション。それでいて調和がとれている。

 3曲目は「クアラルンプール」。CDを聴いた時に感じたアジアンテイストに、ライブならではのアレンジが施されている。ベースの弦が奏でる音は独創的で、時には胡弓のように、時にはバイオリンやチェロのように変色してゆく。この曲をつくったきっかけをたずねたところ、クアラルンプールにはハクエイ自身、演奏活動で訪れたことがあり、町のエネルギーが疲れていた彼に元気を与えてくれたとか。

 カバー曲からは「テイク・ファイヴ」。スタンダードの定番も、ハクエイの手にかかると全く別物に変わる。まず、原曲に比べてテンポがとても速い。そして長い。だんだんリズミカルになり、おなじみのテーマにようやくたどり着く…。低音から高音へと自在に遊泳するピアノ、囁くような心地よいドラムの音色…ベースは控えめでありながらも、しっかりピアノを立てている。3つの音が融合して彼らだけの「テイク・ファイヴ」だ。

 アンコールは「ジ・アーキオロジスト」。「考古学者」という意味を持つこの曲についてハクエイは、こう説明した。「テレビのドキュメンタリー番組に出ていた考古学者のインタビューを見てから、自分で考古学者について想像してつくった曲です。本棚に囲まれている考古学者が、眠りにつこうとあくびをした時、部屋の中の本とかが口の中に吸い込まれてしまう。ぐちゃぐちゃになった口の中を開けてみると、彼が探している答えが実はそこにあった。そんな想像です」。

 貴公子然とした甘いマスク、すらりとした長身、長い指が奏でるロマンティックで優しいイメージの曲と、うって変わって、野心に満ちた男たちの激しい戦いを思わせる競演。オーダーしたドリンクを飲むことすら忘れ、迫力あるサウンドに思わず息を飲んだ。

 終演後のインタビューでジャズを演奏するようになったきっかけについて聞くと、ハクエイは「20歳ぐらいの時、オーストラリアでマイク・ノックというピアニストのライブを観て衝撃を受けたのがきっかけ。当時の彼は60代なかばで、テクニックがすごいというのではなく、魂みたいなものを初めて感じた。彼も陶酔状態で、よだれも垂れているんだけど(笑)全然気にすることはない。自分の深いところを問いただされるような音楽。そういう精神的な音楽を体感して興味を持った」と話した。

 端正でありながら激しいスピリットを持ったジャズピアニストの可能性に拍手喝采が鳴り止まない、ジャジーで特別な夜。2011年の日本ジャズ・シーンに、一味違ったテイストの新たな歴史が今、刻まれていく。

【インタビュー全文は、こちら】

 (関連リンク:ハクエイ・キム公式サイト

〈インタビュアー・プロフィール〉堀内優美 フリーライター。73年生まれ。兵庫県・淡路島出身。行政の企画情報課で広報・番組制作に携わった後、フリーアナウンサー に。新聞・雑誌・WEBなどで記事の執筆、コラムの連載をしている。自身の経験を生かした音楽・舞台・映画といったエンタテインメント分野が得意。司会者 や民間教育機関の講師としても活動している。


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