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ステージレビュー

舞台美術も話題 スタジオライフ「ファントム」開幕

2011年6月17日

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写真:「PHANTOM The untold story 〜語られざりし物語〜」より=撮影・ina−ine拡大「PHANTOM The untold story 〜語られざりし物語〜」より=撮影・ina−ine

男性ばかりの劇団「スタジオライフ」が満を持してお送りする「ファントム」が、6月9日、プレビュー公演の幕を開けた(6月11日〜27日/シアターサンモール ※9日・10日はプレビュー公演)。(文・中本千晶)

 ミュージカルなどで知られる「オペラ座の怪人」が、どのようないきさつで「オペラ座の怪人」となったかを描いたスーザン・ケイの小説「ファントム」の舞台化だ。スタジオライフの演出家、倉田淳が長年構想を温めていたという意欲作。舞台美術に、ミュージカル「レ・ミゼラブル」の新バージョン演出における舞台美術を手がけたことで世界中で注目されているマット・キンリーを起用したことでも注目される作品だ。

 主要な配役の多くがダブルキャストとなっており、「sort」と「destin」の2つの組み合わせがある。筆者が観劇したのはエリック(後のファントム):林勇輔、マドレーヌ(エリックの母):及川健の「destin」の回だったが、他にエリック:山本芳樹、マドレーヌ:青木隆敏の「sort」の回がある。

 世にも恐ろしく醜い顔立ちと、天使のような歌声、そして、建築の天才的な才能を併せ持って生まれた少年エリック(林勇輔)。舞台は3部構成で展開し、第1部「産み落とし者」は、息子をどうしても愛することができない母マドレーヌの葛藤と、母の愛を渇望するエリックの苦悶を中心に展開する。

 第2部「生み落とされし者」では、母のもとを離れたエリックが、その醜い姿ゆえに檻に入れられ見せ物にされてしまうという壮絶な苦難を乗り越え、少年からひとりの男性へと自立していく過程を描く。

 第3部「死に逝く者」では、エリックの建築に関する類いまれなる才能に惚れ込み、やがて父のような存在となっていくローマの石職人、ジョバンニの視点からエリックが描かれる。そして、ジョバンニの娘ルチアーナとエリックの出会いが悲劇を巻き起こす。

 ラストシーンは、オペラ座の地下。孤独と闇のなかで生きていくことを決めたエリックと、そこにクリスティーヌの姿…続編をはっきりと予感させながらの幕切れだ。

 エリック役の林勇輔は、全編仮面をつけながらの芝居。常人には想像がつきがたい過酷な経験を経て、少年がひとりの男へと脱皮していくさまを瑞々しく演じた。姿は醜くとも、心根の部分は少年らしい純粋さを見せなければならない役どころには、「トーマの心臓」を代表作としてきた、この劇団の長年の蓄積が生かされているといえそうだ。

 エリックへの憎しみと、母としての責念との狭間で苦しみ、やがてエリックの企みに翻弄されていく母マドレーヌを演じるのは、劇団のベテラン女役の及川健。ともすれば嫌な女性に見えてしまう難しい役どころを手堅く演じた。

 エリックを取り巻く人々もそれぞれに強烈な存在感を発揮する。神の正しき教えによってエリックを「人間」に育てようとするマンサール神父(山崎康一)。女を魅了する顔の後ろに俗物感をぷんぷん臭わせる医師エティエンヌ・バリー(曽世海司/sortでは笠原浩夫)。獣のような野蛮さでエリックを支配しようとする興行師ジャベール(牧島進一/sortでは堀川剛史)、無条件の愛と包容力でエリックを包むジョバンニ(笠原浩夫/sortでは曽世海司)など。この物語は、異形のエリックを前にして、心に眠る本性を激しく揺り動かされる人々のドラマともいえそうだ。

 注目の舞台美術は、舞台背後に設けられた幕に、映像を映し出し、それが場面ごとにつぎつぎと変わる仕掛け。この幕は透ける素材が使われており、幕の後ろで芝居をすることもできる。フランスのアンティークな一室から、ジプシーたちの見せ物小屋、石造りの建物の建築現場、そして、ジャニコロの丘の上から眺めるローマの全景に至るまで、こじんまりとしたシアターサンモールの舞台を、自在に空間移動させていく手腕は見事というほかはない。

 プレビュー公演では、終演後にマット・キンリー、照明デザイナーのニック・シモンズと演出の倉田淳によるミニトークが行われた。「大きなミュージカルの仕事が続いていたので、小劇場のストレートプレイの仕事はとても新鮮」と語る2人。劇団スタジオライフの印象について「とてもエネルギーを感じる」と評するいっぽうで、「様式的でやや誇張された演技は、普段接しているイギリスのスタイルとは違う。これが日本の文化なんだと感じる」とも。

 演出の倉田さんは、新演出の「レ・ミゼラブル」で、ジャベールが橋から落下するシーンをみて、マッド・キンリー氏に一目惚れだったそうだ。そのときの経験が生かされた演出が、今回の舞台でも垣間見ることができる。

 スタジオライフのファンはもちろんのこと、スーザン・ケイの小説のファン、ミュージカル好き、「オペラ座の怪人」好きにとっても見逃せない、話題満載の舞台である。

《筆者プロフィール》中本千晶(なかもと・ちあき)フリージャーナリスト。宝塚関係の著作に「宝塚読本」(文春文庫)、「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)。Astandスターファイルでも「ヅカナビ」連載中。

◆スタジオライフ公演「PHANTOM ‐THE UNTOLD STORY‐〜語られざりし物語〜」
《東京公演》2011年6月11日(土)〜6月27日(月)

於:新宿シアターサンモール
⇒詳しくは、「劇団スタジオライフ オフィシャルホームページ」へ

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